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政府は28日、2025年度補正予算案を閣議決定し、病害虫の侵入・まん延を防ぐ緊急対策として約8億900万円を計上した。その柱の1つが、ウリ科作物を食い荒らす外来害虫セグロウリミバエに対抗する不妊虫の増殖施設を、鹿児島県などで整備する支援である。被害が続く産地の現場では、国がどこまで継続的に防除コストを負担するのかが大きな関心事になっている。
広がる被害と産地の負担、不妊虫に託す現場
セグロウリミバエは、ゴーヤーやスイカなどウリ科の果菜・果実に卵を産みつけ、果肉を内部から腐らせる害虫だ。2024年に沖縄本島で初めて確認されて以降、周辺離島も含め多くの市町村で見つかり、出荷制限や自家菜園の自粛が続いている。農家は収入減と防除作業の手間の双方に直面し、観光客が持ち込む土付き野菜や荷物の管理にも神経を尖らせている。
こうした中、沖縄では放射線で不妊化したオスを大量に増やし、野外に放つ「不妊虫放飼」が本格化している。週に数千万匹規模で放す計画も示され、ヘリコプターや車両を使った広域散布が検討されている。不妊虫を安定供給するには専用施設が不可欠で、温度管理やエサ代、人件費など、工場型の運営コストが継続的に発生する構造だ。今回の増殖施設支援は、そうした現場のインフラを国が一部肩代わりする試みと言える。
九州側でも、鹿児島県の離島産地は沖縄との行き来が多く、セグロウリミバエ流入への不安が強い。国の支援で増殖施設が整えば、将来万が一侵入した際にも、遠方から不妊虫を取り寄せるより迅速に初動防除に入れる可能性がある。一方で、ほ場の草刈り徹底や家庭菜園の制限など、地域住民が担う日々の対策は不可欠であり、施設整備だけで負担が消えるわけではない。
なぜ今、公費で「不妊虫工場」を支えるのか
今回の8億900万円は、農林水産省が所管する「病害虫侵入・まん延防止緊急対策事業」に位置づけられる。温暖化による冬の弱まりや国際物流の拡大で、外来害虫が国境を越えやすくなっていることが背景だ。1度定着すれば毎年の薬剤散布や被害補填に多額の費用がかかるため、国は「早期の根絶・封じ込め」に重点を移しつつある。予算規模は農林水産関係全体から見れば小さいが、局地的リスクに絞った集中投資と言える。
不妊虫防除は、薬剤に頼らず害虫個体群を減らす「環境負荷の小さい技術」として、すでに別種のウリミバエ対策で実績を上げてきた。だが、その裏側では、増殖施設の老朽化や運営費の確保が常に課題となってきた経緯がある。新たにセグロウリミバエ向け施設を整備する鹿児島側でも、補正予算は建設や初期投資を後押しする一方、来年度以降の維持費を誰がどの割合で負担するかは別途議論が必要になる。
もう1つの狙いは、地域間での「防疫ネットワーク」を強化することだ。沖縄だけに不妊虫供給を依存すれば、台風や港湾トラブルで輸送が止まったとき、全国の対応力が一気に落ちかねない。九州に増殖拠点を持てば、南西諸島から本土への玄関口として、将来ほかの外来害虫が見つかった際にも迅速に試験放飼へ移行しやすくなる。国の投資は、単一の害虫対策にとどまらず、防疫インフラ整備の意味合いも帯びている。
セグロ危機が映す、気候変動時代の防疫モデル
セグロウリミバエ対策は、気候変動時代の新しい防疫モデルの試金石になりつつある。国境検疫だけでは侵入を完全に防げない中、地域ごとに不妊虫や天敵など「生物的防除」のオプションを持ち、被害の芽を早期に摘む発想だ。だが、対象害虫ごとに専用施設や研究体制を整えるには、多額の費用と人材が必要で、地方単独では到底負担しきれない。今回の補正予算は、そのギャップをどこまで埋められるのかが問われる。
また、防除は行政と研究機関だけでは完結しない。沖縄で家庭菜園のウリ科作物の自粛が呼びかけられたように、住民が協力しなければ不妊虫の効果も限られる。鹿児島の島しょ部や本土の産地でも、侵入時には観光客への持ち込み制限や直売所での検査強化など、暮らしに直結する措置が想定される。消費者にとっても、価格や品ぞろえの変化として現れる可能性があり、防疫は「遠い現場の話」ではなくなる。
国の支援で整備される増殖施設が、短期の危機対応だけでなく、将来のさまざまな外来害虫に備える共通インフラとして機能するかどうかは、今後の運営次第だ。誰がどの期間、どの程度のコストを負担するのかという問いに向き合いながら、地域の営みを守るための現実的な防疫のかたちを探る作業が続いていく。
