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日本新聞協会が2025年11月27日、政府がまとめた「人工知能基本計画」の骨子案に対する意見書を公表した。生成AIを運営する企業に対し、ニュース記事など報道コンテンツの利用状況を開示させる新たな仕組みを導入すべきだと訴えている。AIが要約や検索結果で情報を提示する場面が広がるなか、「読者がどこから来た情報なのかを確かめられる状態を保てるか」が焦点になっている。
AIに聞けば済む時代、報道と読者の距離はどう変わるのか
検索窓に質問を入力すると、生成AIが記事を要約して答えを返す──。便利さの裏側で、ニュースの作り手が抱く危機感は強い。新聞協会は、記事が無断で学習や生成に使われる事例が増えれば、読者が元のサイトに足を運ぶ機会が減り、取材や検証にかかるコストを回収できなくなると指摘する。これは経営上の問題にとどまらず、地域の細かな動きを追う取材網そのものが痩せ細る懸念とも結びついている。
実際、地方紙を含む多くの報道機関は、購読料や広告収入をもとに災害報道や行政監視を支えてきた。AIの回答だけで完結する「途中離脱」が増えれば、その資金循環が崩れかねない。協会は意見書の中で、こうした状況が続けば「報道機関の機能低下」を通じて国民の知る権利も傷つくおそれがあると訴え、テクノロジーの利便性と民主社会に必要な情報の蓄積をどう両立させるかという問いを投げかけている。
協会は以前から、検索連動型の生成AIサービスがニュースを要約して提示することで、利用者が検索結果画面だけで用件を済ませてしまう「ゼロクリック」型の利用に警鐘を鳴らしてきた。2024年には政府の知的財産推進計画に対する意見書で、生成AI時代に対応した著作権法の見直しを求めている。今回の要望は、その延長線上で「まずはどのようにコンテンツが使われているのかを見える化してほしい」という最低限の条件を突きつけた格好だ。
政府のAI基本計画と「情報公開ルール」づくりのせめぎ合い
政府は、AI研究の推進やリスク対応の方向性を示すため「人工知能基本計画」と、適正利用のための指針作りを進めている。内閣府は2025年11月21〜27日、骨子案へのパブリックコメントを受け付け、広く意見を募った。この枠組みの中で、新聞協会はAI事業者に対する情報公開の義務づけを明確に書き込むよう求めている。対象はデータの学習にどの媒体がどの程度使われているかや、生成された回答に記事内容がどのような形で反映されているかといった点だ。
背景には、報道機関が個別のAIサービスに照会しても、利用範囲や収益分配の説明が曖昧なままになっているとの不満がある。協会は、こうした「不誠実な対応」を是正する責任を政府にも求め、まずは透明性を担保した上で、ライセンス契約や対価の議論に進むべきだと訴える。AIの振興を掲げる政府側も、国際競争力を理由に規制を抑制したい思惑がある一方で、創作物の権利保護や情報信頼性の確保をどう組み込むかが避けて通れない論点になりつつある。
海外の動きとのずれ、日本が選ぶべき「透明性」の水準
海外では、EUのAI規制法などで、開発企業に対し学習データの概要や著作権コンテンツの扱いを明示する方向が打ち出されている。大手プラットフォームと報道機関が包括的なライセンス契約を結ぶ動きも出ており、AI時代のニュース利用を巡る交渉の土台として「どのくらい使われているのか」という事実情報が共有されつつある。日本の新聞協会の今回の要望も、国際的な透明性ルールとのギャップを意識したものと言える。
一方で、透明性の義務づけが重すぎれば、スタートアップ企業や研究機関の負担が増え、AI技術の発展を阻むのではないかという懸念もある。どこまで詳細な開示を求めるか、対象を大規模事業者に絞るのか、あるいは業界横断の自主ルールで補うのか──日本社会は細部の線引きをこれから詰めていくことになるだろう。ニュースの価値を支える取材現場と、新しいAIサービスの利便性。その両方を維持するためのコストを誰がどのように負担するのかが、今後の議論の核心になっていきそうだ。
