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クラクションとサイレンが重なった2025年11月4日 16:30ごろ、加古川市の国道250号で14台が次々とぶつかった。警察などによると、市内に住む岡本年明さん（78）が運転していた車の破損が激しく、その場で死亡が確認された。助手席の70代男性は胸の骨を折る大けがで搬送され、他の車の乗員にも子どもを含む多くのけが人が出た。帰宅時間帯の幹線で起きた連鎖は、生活道路の脆さをあらためて示した出来事だった。
一瞬で広がった衝突、現場で見えた連鎖
現場は加古川町友沢の交差点付近で、片側3車線の直線区間だ。信号で停車していた列に後方から車が突入し、前に押し出された車両が次の車へとぶつかる。最初の衝撃から数秒のうちに、14台を巻き込む多重事故へ広がった。破片が路面に散り、バンパーが外れた車の間を救急隊が行き交い、乗員は毛布にくるまれて聞き取りを受けていたという。
救助に当たった消防によれば、最も損傷の大きかった車から運転手の男性が引き出され、その場で死亡が確認された。同乗の男性は胸部を強く打ち重傷。他の車では、2〜6歳の子ども4人を含む人たちが打撲などの軽いけがを負ったとされる。報道によって負傷者数の表現に幅はあるが、いずれも多数のけが人が出た点は一致している。
夕刻の交差点では渋滞が長く尾を引き、片側の広い車線が救急車やレッカーの動線となった。上空を旋回するヘリの音に、辺りの店先では営業を続けながらも様子を見守る姿があった。交通が落ち着きを取り戻した後も、道路にはタイヤ痕と破片の跡が残り、連鎖の激しさを物語っていた。
映像と聞き取りが示す手がかり
警察によると、付近を走っていた車のドライブレコーダーには、信号待ちの列に高い速度で突っ込む様子が記録されていたという。映像は衝突までの距離の短さと反応時間の少なさを示し、列の前方だけでなく後方と側方にも衝撃が波及した経路の推定に使われる。ブレーキ痕や車両の損傷分布と合わせて、どの位置で力が集中したかが丁寧に洗い出されている。
負傷者への聞き取りでは、最初の衝突音が響いた直後に2度、3度と金属音が重なったと証言が集まっている。多重事故では二次衝突が被害を広げることが多く、前方不注意だけでなく、巻き込まれ側の回避余地や停止間隔の実情も検証対象になる。渋滞の列で車間が詰まりやすい時間帯だったことも、影響の大きさに結びついたとみられる。
一方で、運転手の体調や車両の不具合といった要因は、現段階で断定できない。車載の記録データ、医療機関での確認結果、整備履歴など、時間を要する要素が多いからだ。警察は入手した映像や現場の痕跡を突き合わせ、要因の重なり具合を探っている。急減速が見られない場合でも、判断の遅れと機械的な異常は別問題として扱われるのが通例だ。
交通の復旧と街の動き、静かな後始末
事故の影響で、国道の東行きは長時間の通行止めとなり、周辺の生活道路へ車が流れた。現場の処理が進んだ結果、同日21:45ごろに規制は順次解除された。残されたのは、破片の回収と油分の除去、破損車両の移送という地道な作業だ。照明車が路面を照らす中、隊員らがブラシと吸着材で汚れを取り除き、白線が再びはっきり見えるまで整えていった。
道路脇では、警察が実測テープで位置関係を確かめ、車両の止まった角度を記録していた。片側3車線という幅のある幹線でも、衝撃の向き次第で退避の余地は限られる。少しの速度差や車間の取り方が、連鎖の形を変えることがある。こうした実測は、同種の場面で何が防げ、どこに限界があったのかを判断する基礎になる。
夕食時を過ぎて交通が戻ると、現場に足を止める人は少なくなった。敷地の隅に積まれた割れた樹脂と曲がった金属が、短い時間に起きた出来事の濃さを静かに伝える。生活のリズムは元に戻るが、あの数秒の連鎖が残した手触りは、しばらく道路に居座り続けるだろう。
