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総裁選を3日後に控えた神奈川で、空気が一段と張りつめた。9月30日に文春オンラインが「神奈川9区で党員826人が『勝手に離党扱い』にされた」と報じ、10月1日、小泉進次郎農林水産相が「事実に反する」と強く抗議した。総裁選の公正さに直結する疑惑であり、ただちに真偽と手続の透明性が問われていると映る。
826人の「離党扱い」疑惑が投げかけた影
9月30日、文春オンラインは、神奈川9区の自民党員について「直近に勧誘された826人が6月に本人の意思と無関係に離党扱いとなっていた」と伝えた。証言者として名乗り出たのは、同区支部長経験のある元衆院議員で、当該の党員に投票用紙が届かず照会したことで異変が発覚したという筋立てである。
記事では、昨年の総裁選で高市早苗氏に投票した層が多く含まれていたとの説明が置かれ、政治的利害と事務処理の境目が曖昧になる構図が浮かぶ。誰の指示で、どの権限で、いつ、どの名簿に手が加えられたのか。現時点で確認されている範囲では、疑惑は「発覚の経路」と「人数」を示しつつも、組織的関与の立証には至っていないとみられる。
一方、県連側がその後に投票対象者数を補正したかどうか、補正の範囲と理由、締切への影響など、具体の運用に関する一次情報はなお出そろっていない。名簿管理は事務方の土台であり、選挙の正当性の背骨である。参照可能なデータや手続記録の公開が、疑念払拭の出発点になるはずだ。
小泉氏の抗議と「総裁選とは無関係」との主張
1日、小泉進次郎氏はコメントを公表し、「事実に反する内容を印象付けるもので、総裁選に不当な影響を与えかねない」と強く反発した。自身は「全く関知していない」と明言し、問題の時期は参院選以前で「総裁選の開催に関連しようがない出来事」との見立てを示した。記事の訂正を正式に求める方針も打ち出した。
小泉氏は県連会長として、組織としての調査と適切な対処を行うと表明した。だが、県連の長であるほど、結果責任と説明責任の二重の重みが増すのも確かである。個別の事実認定は法務と監査の領域だとしても、選挙のハレーションを最小化するには、経緯と是正措置を時系列で明かす以外にない。
今回の疑義は、総裁選のルールそのものを争点化する性質を帯びる。名簿の更新基準、離党・復党の処理、投票用紙発送の締切、追加発送や集計への反映――定めがあるなら、誰の目にもわかる形で示すべきだ。仮に単純な事務の齟齬であったとしても、選挙の公正に関わる事象は「見える化」されて初めて納得が広がる。
ステマ問題の尾を引く中で、何が検証されるべきか
小泉陣営を巡っては、配信動画に称賛コメントを投稿するよう要請するメールが関係者に送られていたとする「ステマ問題」も指摘されてきた。野党からは「総裁選から撤退したほうがよい」との強い批判も出ており、一連の出来事が相乗的に疑念を増幅させている。一部報道によれば、党内外で透明性を求める声が高まっているという。
今回の焦点は二つに尽きる。第一に、826人という数字の根拠と、その扱いを決したプロセスの全容である。第二に、そのプロセスが総裁選の有権者構成に与えた実質的影響だ。偶然の重なりなのか、必然の流れなのか。誰に有利に働いたのか。検証は主観を排し、文書・ログ・発送記録・照会履歴といった一次資料に基づいて進むべきだ。
総裁選は10月4日に投開票を迎える。わずかな日程の中でも、県連と党本部が確認できた事実を小出しではなく束ねて開示できるかが試金石になる。政治の信頼は、勝敗そのものよりも、勝ち方に宿る。名簿という地味なインフラをどう扱うかに、政党の体質と覚悟がにじむ局面である。
