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乾いた打撃音と叫び声が、朝の神田のオフィス街を一瞬ざわつかせたのは2025年7月31日だった。周囲の通行人からは「けんかをしている」と通報が入り、現場一帯は騒然となったという。千代田区神田須田町の路上で、台湾出身とされる男性2人が催涙スプレーを浴び、鉄パイプで顔などを殴られた事件で、警視庁国際犯罪対策課は11月21日までに23歳の宮下佳樹容疑者ら5人を強盗傷害容疑で逮捕した。現場はJR神田駅近くのオフィス街だ。
大阪から神田へ、周到に準備された襲撃
捜査によると、宮下容疑者らは事件当日の午前0時ごろ、大阪府内からレンタカーで出発し、約7時間半かけて東京に移動したとみられる。午前7時40分ごろに現場近くへ到着したあと、周辺で様子をうかがいながら、防犯カメラ2台のレンズ部分にスプレーを吹き付けるなど、映像が残らないよう工作していたという。こうした足取りは、その後の聞き取りや防犯カメラ解析から判明したとされる。
そして午前9時ごろ、JR神田駅近くの路上を歩いていた男性2人に背後から近づき、催涙スプレーを浴びせたうえ、鉄パイプで顔面などを繰り返し殴った疑いが持たれている。事件が起きたのは平日の朝で、人通りの多い時間帯だった。2人は額から出血するけがを負ったが、命に別状はなかった。作業服姿の男らは秋葉原方面へ走って逃走し、事件はしばらく未解決のまま残されたと警視庁は説明している。
匿名・流動型「トクリュウ」と闇バイトの影
逮捕されたのは、八尾市在住で無職の宮下容疑者のほか、札幌市の解体工2人と10代後半の少年2人で、警視庁は5人の認否を公表していない。5人はいずれも20代前半までの若い世代だ。5人は別の犯罪で募集された闇バイトを通じて知り合った可能性があるとされ、背後に指示役がいたかどうかを慎重に調べている。犯行前後には現場周辺でおよそ1時間半にわたり待ち伏せしていたとの情報もあり、金品を狙った計画性の高い襲撃だったとみられる。
国際犯罪対策課は、インターネット上で匿名募集され、役割やメンバーが流動的に入れ替わる犯罪グループ「トクリュウ」の関与も視野に入れて捜査している。トクリュウは特殊詐欺や強盗などで使われるとされ、実行役だけが表舞台に現れやすいのが特徴だ。今回も、防犯カメラをつぶして出入り経路を確保するなど、素人とは言い難い動きが見える。
朝の通勤客でにぎわう路上で起きたこの事件は、目に見えにくい犯罪ネットワークが、日常のすぐそばまで入り込んでいる現実を静かに突きつけている。
