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研究室でNF膜をEDA溶液に浸し、表面に正電荷をまとわせると、分離の挙動が一変した。東北大学の研究チームが2025年11月5日 11:00に発表したのは、使用済みLIB浸出液からリチウムを選択的に通す新しい膜分離プロセスである。得られた透過液を濃縮と再結晶化に回すだけで、薬品添加なしに純度99%以上の電池級炭酸リチウムへと届いた。工程の短縮と環境負荷の低減を同時に示す成果だ。
膜の工夫と条件設定
チームが軸に据えたのはナノろ過(NF)である。NF膜は溶液中のイオンを、電荷や水和半径の違いで選り分ける薄膜分離技術だ。微細な孔と帯電した表面が“ふるい”となり、多価イオンを抑えつつ単価イオンの透過を稼ぐ。化学薬品を大量に使う抽出より、エネルギーと排水の負担を抑えやすい点も特徴である。
今回は市販の2種類のNF膜を選び、孔径の違いと表面電荷の効果を丁寧に切り分けた。比較的孔径が大きいNF270と、小さいNF1000に、エチレンジアミン(EDA)を用いた表面改質を施し、正に帯電したNF270-EDAとNF1000-EDAを作製した。市販膜をベースにする発想は、供給性と実装の現実味を高める狙いに通じる。
分離試験は、膜で供給側と透過側を区切ったセルにモデル浸出液を流し、温度25℃で運転した。評価したのはpH2〜5.6と操作圧力2〜4MPaの範囲である。さらに、三元系(Ni、Co、Mn)の廃棄LIBから得た実浸出液(pH1.96)でも確認し、実使用条件での挙動を押さえた。条件の重ね合わせが、選択の鍵を具体化している。
数字が示した選択性の飛躍
EDA改質により膜表面が正に帯電し、ドナン排除効果(膜と同符号のイオンが静電反発で入りにくくなる現象)が強まった。これによりNi2+やCo2+、Mnx+の侵入が抑えられ、Li+が優先的に透過した。実浸出液での分離係数はLi+/Ni2+が645.9、Li+/Co2+が508.8、Li+/Mnx+が307.4となり、既報値を一桁以上上回る選択性を示した。
二段のNFを続けて運転し、得られた透過液を濃縮/再結晶化したところ、化学薬品を足さずに純度99%以上のLi2CO3に到達した。数理モデルDSPM-DEでの解析は、電荷排除とサイズ排除の相乗が高選択の起点であることを裏づける。膜構造と表面電荷の設計余地が、通液量と純度の両立条件を指し示した。
工程が短くなるという意味
湿式法の主流である溶媒抽出は、抽出剤や中和剤の投入がかさみ、多段の工程管理も要する。前段でリチウムだけを高い選択で透過できれば、後段の炭酸化や精製に使う薬品と水の量を抑えられる。膜の差し替えで設計自由度を持てる点も、原料組成が揺らぐリサイクル現場では扱いやすい。
今回の工夫は、市販NF膜への簡便な表面改質という現実的な処方にある。専用材料の新規合成に頼らずとも、高選択を引き出せるため、立ち上げの初期コストや調達リスクの面で有利に働く可能性がある。既設の湿式ラインに前処理として組み込む設計も視野に入るだろう。
一方で、膜分離にはフラックスの維持やファウリング対策、長期安定の検証といった現場ならではの論点がある。研究チームは連続運転プロセスの実証とスケールアップを次段のテーマに据える。実用化の距離は、膜の寿命と運転コストの曲線が交わる地点で測られるはずだ。
静かな改質膜の一枚が、資源循環の地図を少し描き替えている。