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首都アンタナナリボの風がざわめいた。2025年10月14日、軍精鋭部隊CAPSATのランドリアニリナ大佐が国営ラジオで権力掌握を宣言し、国外へ退いたとされるラジョエリナ大統領の失脚を事実上認めた。軍は下院を除く国家機関の機能停止と最大2年の移行政権を示し、停電や断水に抗議してきた若者のうねりは、国家の統治構造そのものを揺さぶる局面に入ったと映る。
権力掌握の宣言と揺れる首都
ヤシの木と仏植民地時代の建物が続く「5月13日」広場では、旗や横断幕を掲げた群衆が踊り、歌い、行進した。群衆の一角には日本のアニメの海賊旗をあしらった絵柄も見え、抗議の熱は文化的記号を巻き込みながら街路に広がっていた。壇上に立った軍の姿勢は、治安維持の枠を超え、政治の前面に出たことを告げていた。
同日、ランドリアニリナ大佐は国営ラジオで軍が統治を引き継ぐと発表した。軍は下院を存続させる一方で、上院、高等憲法裁判所、独立国家選挙委員会、高等裁判所、人権・法統治防衛高等評議会の機能停止を明示した。さらに、軍主導の委員会が暫定政府とともに最大2年間国を統治し、その後に選挙を準備すると説明した。
大統領側はこれを「憲法秩序への攻撃」と位置づけたが、事態は加速した。大統領が下院解散を狙ったのに対し、下院は弾劾決議に踏み切った。憲法上の膠着が生まれ、軍は「国家の空白」を埋める形で前面に出た格好だ。強硬な綱引きの末、権力の重心が一気に軍へ傾いた構図が浮かぶ。
膠着の末に示された移行の青写真
抗議は9月25日の停電や断水への不満から膨らみ、大学生ら若い世代が主導した。デモの拡大とともに治安部隊の離反が広がり、CAPSATは市民への発砲拒否を表明して政権から距離を置いた。ランドリアニリナ大佐は先週、明確な決別を示し、抗議の中心地に姿を現す場面も重なったことで、街の空気は政変の予感に包まれていった。
13日夜、大統領は国民向け演説で「生命の脅威により安全な場所へ移動した」と訴えた。一方、一部報道ではフランス軍機で国外へ退避したとの情報が広がり、実像は不透明なままだった。いずれにせよ、政治的空白と治安の流動化が重なり、翌14日の軍の宣言へとつながったとみられる。
軍は移行期間を最長2年と区切り、暫定政府と二人三脚で統治すると示した。だが、停止対象となった選挙管理や憲法裁判の機能は民主的正統性の根幹にかかわる。抗議の現場では歓声もあれば警戒の声もあり、「早期の民政移管」を求める空気が並走している。青写真は示されたが、道筋の実効性はこれから問われる。
路上の若者と長引く貧困、外部のまなざし
背景にあるのは生活の逼迫である。人口は約3千万規模に膨らみ、世界銀行によれば2022年の貧困率は75％超に達する。都市でも貧困が悪化し、停電や断水が日常を切り刻む。報道では平均年齢は20歳未満とされ、将来を担う世代ほど不満と希望の落差を抱える。街頭の熱は、その落差の大きさを映している。
地域機構も動きを注視している。アフリカ連合（AU）は9月下旬以降、事態に深い懸念を示し、関係者に冷静と対話を呼びかけた。原則は明快で、暴力の回避と憲法秩序の尊重である。14日の権力掌握宣言を受け、国際社会の関与が一段と強まる可能性がある。制裁か仲介か、その舵の切り方が焦点となる。
2009年の政変でもCAPSATは要の役割を担った。今回はその部隊がかつての盟友から離反し、権力の側から市民の側へ重心を移した構図である。だが軍が担保すべきは秩序だけではない。可視性の高いロードマップ、独立した選挙管理、権利保護の仕組みがそろって初めて移行は信頼を得る。街路の熱を、制度の力へとつなげられるかが問われている。
