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磨き上げられたステンレスのタンクが並ぶ新施設に、秋の冷気が流れ込んでいた。感染症治療を支える抗菌薬で、国が国産化を急ぐ中、明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマが2025年10月16日、岐阜県北方町で原料生産拠点の完成を明らかにした。12月の稼働開始を見込み、年間200トン規模の原料生産に踏み出す計画だ。供給網の脆弱さが露呈した日本の医療にとって、国産の鎖を太くする一歩と映る。
小さな町で動き出す「国産の鎖」
同社によれば、新施設ではカビ由来の微生物発酵を起点に抗菌薬原料をつくる。工程は設備投資と人材の熟練を要し、立ち上がりの難しさがつきまとう。それでも12月の稼働を見据え、現場では計器の針を一つひとつ確かめる手が止まらない。生産能力は年間200トン規模。まずは原料の国内供給を太くし、段階的に原薬へと歩を進める構えだ。
社長は「平時から一定の生産水準を保たなければ、有事の際の迅速な供給は難しい」と強調した。過度な輸入依存を脱し、平時に回せる設備と人を維持すること。採算性の厳しい抗菌薬では、最初から最後まで見通せる供給と需要の安定が成否を分けるとにらむ。工場の外では、地域の物流や電力の受け入れ態勢づくりも並走している。
同社は2028年ごろまでに原薬の国産化にも取り組む計画を掲げる。ペニシリン系まで射程に入れた挑戦は、国内の空白を埋める意味合いが大きい。医療現場で日常的に使われる薬を国内でつくり切ることができるか。小さな町で動き始めた発酵槽の鼓動に、供給網再編の現実味が重なる。
2019年の教訓と中国依存の現実
日本の抗菌薬は、注射剤の主流であるβラクタム系を中心に、原料や原薬の大半を中国に頼ってきた。厚生労働省が2023年1月19日に公表した取組方針は、βラクタム系抗菌薬の原材料や原薬が「ほぼ100%中国に依存」と明記し、外部要因で供給が止まる蓋然性に警鐘を鳴らす。手術の感染予防にも使われる基幹薬だけに、途絶は医療全体に波及しやすいとされる。
実際、2019年には中国の製造トラブルに起因して、セファゾリンナトリウムなどの供給が長期にわたり滞った。病院の在庫は逼迫し、診療ガイドラインが推奨する標準治療の運用にも影響が出たと伝わる。代替薬でしのぐ場面が増えれば、薬剤耐性(AMR)への悪影響も避けにくい。安いから輸入、という常識が裏目に出た瞬間が刻まれている。
取組方針は、安定供給のために原材料・原薬・製剤の各段階で弱点を補強する必要を示した。特に注射用抗菌薬は手術の安全と直結する。供給の鎖を国内で握り、運び、備える。生産だけでなく、需給ひっ迫時に迅速に振り向ける調整力をセットで整えることが肝とされる。今回の新施設は、その鎖の一部を国内で鍛え直す試みと重なる。
国の後押しと企業の宿題
政府は経済安全保障推進法に基づき、抗菌薬を特定重要物資に指定したうえで、2023年1月19日に安定供給の取組方針を公表した。基金や補助事業を通じ、原薬製造設備の導入や備蓄の整備を後押しする枠組みが動き出している。2023年7月31日には、シオノギグループの計画が厚労大臣の認定を受けたことも公表され、複数プレイヤーが役割を分担する地図が描かれつつある。
一方で、抗菌薬の薬価は低く、設備を遊ばせないための「平時の仕事」をどう確保するかが課題として残る。原料から原薬、製剤まで一定量を回し、需給が崩れたときに素早く厚みを増せる仕組みが要る。価格や調達の仕組みを含め、国の支援と医療現場の実需をつなぐ制度設計が問われる局面だ。中国との価格競争に挑むには、持続可能なコスト構造が不可欠となる。
国は工程の国内移管を段階的に進め、数年単位での自給度引き上げを見込む。2030年ごろを一つの節目とする見方が広がる中、企業側に突きつけられる宿題は、品質・コスト・納期(QCD)の同時達成である。岐阜の新拠点が積み上げる月次の実績が、国内他拠点の投資判断を後押しできるか。現場の積み重ねが、医療の足元を支える確かな強度へとつながっていく。