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サンフランシスコ湾岸に朝の霧が降りるころ、マイクロソフトの名が記された分厚い訴状が法廷の扉をくぐった。消費者11人が集団訴訟を申し立て、オープンAIとの「秘密協定」により生成AIの価格が不当に押し上げられたと主張したのである。AI競争の中枢で何が起きているのかを問う動きが、いま現実の法廷に立ち上がった意義は大きい。
価格をめぐる攻防、法廷へ
2025年10月14日、米カリフォルニア北部地区の連邦地裁に新たな集団訴訟が持ち込まれたと確認された。原告は消費者11人で、マイクロソフトがオープンAIと結んだ独占的なクラウド契約を通じ、チャットGPTの運用に不可欠な計算資源の供給を縛り、価格や品質に影響を及ぼしたと訴えている。請求は過剰支払いの損害賠償に加え、将来の再拘束を禁じる差止命令にも及ぶとされる。
訴状は、協定がオープンAIの出力を事実上抑制し、消費者向け生成AI市場で価格の下支えを生んだと描く。さらに、2025年2月の価格競争期でもチャットGPTの価格は競合の100〜200倍（トークン当たり）に達していたと主張する。現時点で確認されている範囲では、こうした主張は法廷での立証を待つ段階だが、計算資源の支配が価格形成に影を落とした構図が浮かぶ。
訴訟名は「Samuel Bryantほか対Microsoft」。被告はマイクロソフトのみで、オープンAIは名を連ねていない。マイクロソフトは、提訴の内容を精査中としつつ、同社とオープンAIの提携は競争とイノベーション、責任あるAI開発を促すと表明した。コメントを避けたオープンAIとの対照が、両社の距離感を物語ると映る。
「独占的クラウド」の描く力学
訴状は、マイクロソフトが早い段階でオープンAIに計算資源の独占的供給を取り付け、長らくその蛇口を握ったとする。これによりチャットGPTの出力やサービス品質に下限が生じ、同時に価格水準が押し上がったという構図だ。マイクロソフトが自社の競合製品であるCopilotの体制を整える間、オープンAIの顧客が高値を強いられたと原告側は訴える。
一方で、2025年6月にオープンAIが他社（グーグル）から計算資源の調達を開始したことを転機として、トークン価格が最大80%下落し、出力や速度、選択肢が改善したと訴状は述べる。供給源の多様化が価格や品質に即座の変化をもたらしたとの描写は、計算資源の集中がもたらす「見えない関税」の存在を示唆する。独禁法の焦点がクラウドの層へ移りつつあるとみられる。
背景には、2019年以降に積み上がった関係の重みがある。マイクロソフトはオープンAIに対し多額の資本とクラウドを提供し、生成AIブームの推進役となってきた。だが原告側は、この関係が一定期間、競争を痩せさせ価格を歪めたと主張する。市場のスピードと集中投資の相互作用が、法制度の目線を試す局面に入ったといえる。
広がる注視、ユーザーに何が残るか
法廷が最終的に何を認定するかは未知数である。現時点で確認されている範囲では、計算資源の独占的取引が価格と品質に与えた影響、そして市場定義が主要な争点になりそうだ。もし原告の主張が通れば、クラウドを起点とする縦横の提携慣行にまで踏み込む司法判断が生まれ、価格設定や優先接続の在り方に波及する可能性が高い。
逆に、被告側の論理が受け入れられれば、提携はイノベーションと消費者利益を拡大したという評価が強まる。AIモデルの進化とクラウド最適化がコストを押し下げ、価格低下と品質改善をもたらしたという説明が重みを得る。いずれにせよ、ユーザーにとって重要なのは透明性だ。計算資源の出所と配分、そして価格の根拠がどこまで開示されるかが信頼の分岐点になる。
チャットGPTが公開されたのは2022年11月30日。わずか数年で、生成AIは生活と産業の深層に入り込んだ。今回の訴えは、その基盤であるクラウドと投資が公正に機能しているかを照らす一歩である。法廷での攻防は続くが、計算資源の多元化と接続ルールの明確化が進むなら、ユーザーの選択肢は広がるはずだ。次に問われるのは、誰がその道筋を示すのかである。
