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会議室にノートPCの画面が並ぶ朝。国土交通省は2025年10月から、行政端末での生成AI利用を全職員に広げた。従来は専門部署への申請と許可が前提だったが、公開情報のみを扱う「Copilot Chat」を対象に申請を外し、即日から使える導線に切り替えた。議事録作成や文案の素案づくりの手間を減らし、政策立案に振り向ける時間を取り戻す狙いがにじむ。
現場で始まった「全員解禁」
省内では働き方改革のかけ声が続くなか、業務のボトルネックになってきた定型処理をどう圧縮するかが問われてきた。直近1カ月で申請件数が80件を超えたという利用熱は、現場の切迫を映す。黒田昌義官房長は「議事録などの手間を大幅に省き、政策立案に充てる時間を増やしたい」と語った。解禁の射程は当面、公開情報に限るが、全職員の端末で同じ入口からAIに触れられる意味は小さくないとみられる。
今回の運用では、メール本文や庁内資料など非公開情報は入力しない前提を徹底し、生成結果は人が検証する二重チェックを据える。想定業務は、会議の要点整理、他省庁の公開文書の要約、草案の表現調整、公開データに基づく説明資料の下書きなどである。生成AIの「試しやすさ」を担保しながら、誤情報の混入や著作権上のリスクを最小化するラインを探る構えがうかがえる。
申請なしで使えるのはどこまでか
申請を不要にしたのは、マイクロソフトの「Copilot Chat」の機密性1、すなわち公開情報のみを扱う運用に限る。プロンプトに個人情報や未公表の業務情報を含めることは禁じ、意図せぬ情報流出の芽を摘む。現時点で確認されている範囲では、詳細な内部通達の全文は公開されていないが、職員向け研修や入力ルールの明確化を並走させることで、現場の判断負担を下げる方針と映る。
ルールの背景には、デジタル庁が5月に示した政府横断のガイドラインの流れがある。各府省が自らの業務特性に合わせ、どの情報をどの器で扱うかを線引きする作業が進む。国交省のやり方は、まず公開情報の領域で裾野を広げ、運用と教育の型をつくる段階といえる。偶然の「流行」ではなく、必然の制度設計としてのAI活用に踏み込めるかどうかが問われている。
「源内」がひらく実務の回路
11月からは、法令調査や国会答弁検索などを担う特定の職員に、デジタル庁が内製した生成AI「源内」を試験的に開放する。これは機密性2、すなわち個人情報や非公開情報を扱う用途を想定した環境で、よりセキュアな領域の業務を支える。デジタル庁は源内上で国会答弁検索AIや法制度調査支援AIなどを提供しており、行政実務の速度と正確さを底上げする基盤の整備を進めている。
国交省の試行は、その官民連携の土台に乗る第一歩といえる。源内の利点は、閉じた環境での記録と検証が可能な点にある。生成過程のログが残れば、結果の根拠をたどれる。対外説明責任が求められる行政には必須の設計だ。中野晶子情報政策課長は「いずれ全部局で機密性2の生成AIが扱えるようにしたい。その第一歩」と語り、試行の成果を踏まえて対象と機能を段階的に広げる考えを示した。
何が変わり、何が課題か
省内で最も時間を奪うのは、会議録や照会への回答案づくりといった「質より量」の仕事であることが多い。直近で80件超の申請が積み上がったという利用実態は、現場が即効性を求めている証左である。公開情報のみの範囲でも、たたき台の生成や参照先の探索を自動化できれば、職員は判断が要る論点に集中できる。その効果は残業の抑制や、繁忙期の山谷の平準化にも波及するとみられる。
一方で、課題は少なくない。生成結果の事実確認にかかる時間、文体や表現のばらつき、誤りが紛れ込むリスク、そして「AIに委ねる範囲」をめぐる組織内の合意形成である。誰に有利なのか。AIに強い職員だけが時間を得て、弱い職員が取り残される構図は避けたい。入力ルールの徹底とレビュー体制の設計を前提に、効果測定と改善サイクルを可視化することが、解禁の次の課題として浮かぶ。
