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ベッドでスマホをいじり、外に出ずに1日が過ぎていく。そんな短尺の自撮りが、中国のSNSで「老鼠人」と名乗る若者の合言葉になっている。2月下旬に投稿された動画を起点に関連閲覧は20億回規模まで膨らみ、怠惰ではなく「低エネルギーの自衛」として受け止める声が広がった。
ベッドの中で始まり、ベッドで終わる一日
動画の多くは、起床後もしばらく布団から出ず、配達弁当を温め、映画やゲームを流し見しながら時間をやり過ごす流れを淡々とつなぐ。Xiaohongshu（小紅書）には、部屋の片隅の明かりや電子音、指先の動きが刻む小さなリズムが、日記のように並ぶ。
投稿者は「人と関わらない」「今日は家から出ない」などと画面に文字を重ね、通知の止まったスマホや開封されない荷物を映す。語りは少なく、生活の密度が薄まった時間をそのまま置く編集が多い。視線は外界よりも、手元の画面と自分の体調に向く。
なかには失業や休職の経過をタイトルに添える人もいれば、整った部屋や丁寧なメイクで軽やかに仕立てる人もいる。共通しているのは、誰かに勝つ物語ではなく、何もしない自分を罰しないという基調だ。短い映像が、安堵と後ろめたさを同居させる。
なぜ共感が集まるのか
対極には、早起きや筋トレ、資格学習で自分を鍛え上げる成功物語がある。老鼠人はそれを否定するよりも、いまは走れないときの姿を可視化する。拡散は短期間で広がり、弱さを共有する言葉として定着の兆しを見せた。
暗がりで静かに動くネズミの比喩は、視線を避けて生き延びる感覚を呼び起こす。匿名性の高さや、画面越しの距離感は、気力の乏しい日でも参加できる余地を与える。評価や競争から離れ、ただ居ることを許す空間が、確かにそこに用意される。
中国の若者文化には、頑張りから距離を置く言葉が折々に現れる。老鼠人は抗議のスローガンというより、私的な気分の記録として息をする。ベッドサイドの小さな生活音が、過剰な自己改善の圧から身を守るシェルターとして映っているのだろう。
プラットフォームと現実の折り合い
生活情報や買い物レビューが集まるXiaohongshuに、低エネルギーな日常の断片が次々と流れ込む。整った映像はスポンサーの匂いを帯びる一方、手ぶれのある断片は素朴で、両者が同じタイムラインに並ぶ。プラットフォームの雑多さが流行の燃料になる。
長時間の視聴や昼夜逆転が心身に負荷をかける懸念はある。だが、無理に外へ行くことを迫らない共同体が、一時の避難所として機能する場面もあるだろう。映像の向こうにいるのは、怠惰な他人ではなく、今日はうまく動けない自分の写し身でもある。
照明の落ちたワンルームで、電子レンジの終了音が小さく鳴る。指先が画面を滑り、たまに猫が通りかかる。何も起きないという出来事が、確かに共有されていく。その静けさは、騒がしい世界に押し広げられた、ささやかな余白のように見える。
