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内戦と経済危機が続くミャンマーで、アヘンポピーの畑がふたたび山肌を覆い始めている。国連薬物犯罪事務所（UNODC）が12月3日に公表した最新調査によると、2025年のアヘン栽培面積は前年より17％増え5万3100ヘクタールに達し、この10年で最大となった。紛争と貧困に追い込まれた農民が、生活のため違法作物へ戻っている実態が浮かぶ。
追い詰められた農民にとっての「最後の現金作物」
ポピー畑が広がるのは、軍と武装勢力の戦闘が続く山岳地帯の村々だ。市場への道が遮断され、穀物や果樹では現金収入を得にくいなか、多くの家庭は家畜や蓄えを失い、現金を得る手段が急速に細っている。UNODCは、こうした紛争と経済危機に追い詰められた農民が生計のためアヘン栽培へ戻っていると分析する。
アヘンは乾燥させて長期保存でき、商人が山間部まで買い付けに来るため、家族の食費や借金返済を支える「最後の現金作物」になりやすい。報告書では、生のアヘン価格が2019年からほぼ倍増し1キロ当たり約329ドルとなる一方、1ヘクタール当たり収量は約13％低下しつつも、栽培面積の拡大で総生産量はなお1％増えたとされる。一度アヘンに頼る生活に戻ると、借金や仲買人との関係が絡み合い、抜け出すのは容易ではない。
国連が警告する「アヘン経済」の定着
UNODCがまとめた「ミャンマー・アヘン調査2025」は、軍事クーデター後4季目の栽培状況を分析したものだ。2020年以降アヘン栽培は増加基調が続き、かつての減少傾向を反転させた。アヘン経済の規模は最大で約10億5000万ドルと試算され、2024年の国内総生産（GDP）の約1.4％に相当するとの推計も示された。報告書は、こうした動きが2020年以前の国際支援による削減努力を帳消しにしつつあると警告する。
UNODCは前回の2024年調査で、治安と経済がさらに悪化すれば栽培拡大に転じる恐れが高いと警鐘を鳴らしていたが、その懸念は現実となった。今回の報告では東部シャン州やチン州に加え西部サガイン地域でも新たな栽培地が確認され、英紙ガーディアン電子版などは周辺国への流通拡大を懸念する論調を伝える。UNODCの担当者は、取り締まりと同時に合法作物やインフラへの支援を通じた代替生計の確立が不可欠だと訴えている。
アフガニスタン減産後、世界市場で増す存在感
アフガニスタンではタリバン政権による事実上の栽培禁止でアヘン生産が急減しており、その空白をミャンマーの増産が埋めつつある。国連や各国メディアは、同国が世界の違法オピウムの主要供給源となり、これまでアフガニスタン産が多かった欧州市場でもミャンマー産とみられるヘロインの摘発が目立ち始めたと指摘する。需要国側の規制や摘発が強まっても、供給地が移るだけという「風船効果」を懸念する声もある。
ミャンマーは覚醒剤メタンフェタミンの一大生産地でもあり、アヘン経済の拡大は合成麻薬との複合的な脅威を強める。アジア太平洋の需要国は、日本を含めて取締りを強化しているが、紛争と貧困が続く限り供給は形を変えて生まれかねない。アヘン畑の広がりを止めるには、治安回復と農村の暮らしの再建という時間のかかる課題に、国際社会が腰を据えて向き合えるかが問われている。
参考・出典
- Myanmar opium production hits highest level in 10 years | AP News
- Myanmar: Opium crop hits 10-year high amid conflict and economic collapse | The United Nations Office at Geneva
- Myanmar’s opium cultivation reaches ten-year peak | United Nations in Myanmar
- UN drug experts say opium production has leveled off in Myanmar, but instability may trigger a rise
- Opium poppy cultivation in Myanmar hits highest level in a decade, UN report says | Euronews
- Myanmar’s opium poppy cultivation hits highest level in a decade, UN says
