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政権の幹部たちが足並みをそろえたのは、徴兵制の即時復活ではなく、ドイツとして新たに導入する「登録」と「選抜」を軸にした兵役制度だった。2025年11月13日に合意内容が発表され、年内の法案成立と2026年の施行が見込まれている。
制度の柱は、18歳となる若者全員に対する質問票の送付と、2027年に始まる男性を対象とした一斉の身体検査。志願者を広く募りながら、有事に備えて必要な人員基盤を整えることが狙いだ。
志願を軸に、登録と検査を段階導入
制度の入り口は、18歳の男女に届く質問票である。健康状態や技能、軍務への関心を記入し、男性は回答が義務、女性は任意となる。これは11年に停止された旧来の徴兵とは異なり、平時は志願制を基本に据える設計だ。まずは裾野を広げ、選抜の母集団を確保することに主眼が置かれる。
次の段階が、2027年7月から始まる男性の一斉身体検査である。対象は2008年生まれ以降の年次で、選抜の公平性と迅速性を高める。登録と検査を通じて得たデータは、職能や適性とひもづく。平時の訓練や配置に生かすだけでなく、緊張時に即応可能な人員像を可視化する「動員インフラ」を再建する発想だ。
法制面では、志願で充足できない場合に限り、政府が政令と議会同意で義務的召集へ移行できる。自動的な徴兵復活ではなく、段階と歯止めを設ける構えである。モデルはスウェーデン型に近いと説明され、登録の継続性と社会的合意の更新を両立させる道を探る。
目標は「欧州最強」の通常戦力へ
ドイツ連邦軍の現員は約18万2000人とされる。政府は来年に約2万人を積み増し、その後も段階的に増勢する。中期像としては27万人規模と20万人の予備役を視野に入れ、装備や訓練と一体で抑止力を底上げする。給与や資格取得支援など待遇の改善も計画に組み込まれ、短期任用から専門職育成まで回路を多層化する。
背景には、対露抑止の強化と、欧州の自助努力を求める声の高まりがある。連立与党は「まずは志願」を掲げつつ、兵站と人材の両輪を再設計する方針で一致した。登録・監督体制を再起動してデータを常時更新することで、部隊の拡充と予備役の稼働性を引き上げる。数だけでなく、配備速度と持続性を意識した設計だ。
この合意は、首相が掲げる「欧州最強の通常戦力」づくりの基盤でもある。志願の裾野を広げ、基礎訓練から専門課程までの導線を整えれば、平時の即応性は高まる。登録と検査は統計上の把握に留まらず、災害やサイバー領域を含む全体の運用設計に直結する。人員政策が安全保障の中核に戻ってきた。
若い世代のためらいと、社会の納得
一方で、若者の間にためらいがあるのも事実だ。政府は「懸念や恐れを煽らない」と繰り返し、志願の魅力を高める施策を積み上げる。女性の義務化は見送り、現行憲法の枠内で参加の選択肢を広げる。兵役だけでなく、社会貢献の場を重ね合わせて説明することが、制度の持続性を左右するだろう。
議会手続きは年内の可決をめざす。施行後は半年ごとに到達度を検証し、必要に応じて運用を改める。数字の積み上げに終始せず、部隊の質と練度をどう確保するかが問われる段階に入った。登録と検査が定着すれば、平時からの育成と配置の精度が上がる。制度は動きながら最適化されていくはずだ。
有事を前提にしない備えを、社会がどの程度まで共有できるか。議事堂前の声と兵営の訓練が交差する日々は続くが、段階設計の静かな手触りは、拙速さとは異なる現実味を帯びている。
