ネクスペリアが中国子会社に公開書簡　分断サプライ網の修復訴え

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2025.11.28

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オランダに本社を置く半導体メーカー、ネクスペリアが中国の関連会社に向けて異例の公開書簡を出した。9月にオランダ政府の介入でサプライチェーンが分断されて以降、両者の対立が長引き、自動車向けの基本的なチップ供給に再び不安が広がっている。政治と企業の綱引きは、なぜここまで日常の部品調達を揺さぶるのか。

車の足元を揺らす“安価なチップ”の止まり方

ネクスペリアはドイツ・ハンブルクなど欧州で作ったウエハーを中国・東莞工場で組み立て、自動車や家電向けの安価な汎用チップを供給してきた。11月27日の公開書簡で本社は、中国側に対し途絶えた連絡を再開し、供給網を元に戻す協議に応じてほしいと求めた。電話やメール、面会の打診を重ねても実質的な返答がなく、顧客からは生産停止の懸念が寄せられているという。

こうしたチップはブレーキやパワーウインドーなど、目立たないが車の安全性と快適性を支える部品に使われる。新型コロナ禍の半導体不足で打撃を受けた自動車工場は、今回も生産計画の見直しや残業削減などでやり繰りを迫られている。中国・東莞の工場では、機械の一部がウエハー不足で止まり、勤務時間を短縮する従業員も出ていると地元メディアは報じる。事前に在庫を厚めに積んでいたメーカーと、従来どおり必要最小限だけ確保してきたメーカーの差も浮かび上がっている。

一見単純なチップが供給の「弱い輪」となりやすいのは、コストを優先して特定の加工拠点に生産を集中させてきたうえ、多くの完成車メーカーが在庫圧縮を進めてきたからだ。製品自体は代替しやすく見えても、品質認定や設計変更には時間がかかり、すぐに別の供給元へ切り替えることは難しい。今回のネクスペリア問題は、こうした構造的な脆さが依然として解消されていないことを示している。

国家安全保障と企業統治が絡み合う背景

事態の発端は9月末、オランダ政府が中国系オーナーの支配下にあったネクスペリアの経営権を一時的に掌握したことにさかのぼる。政府は冷戦期の法律を用い、欧州拠点の中国移転や技術流出の懸念があるとして、当時の経営トップを退任させた。中堅の車載チップメーカーに対してここまで踏み込んだ措置は異例であり、欧州が安全保障の観点から半導体産業への関与を強めていることを象徴する出来事となった。

政府介入ののち、欧州側と中国側の対立は企業統治や資金決済のレベルにも広がった。ネクスペリア欧州本社は10月26日付で東莞工場向けのウエハー供給を停止し、現地経営陣が契約どおりの支払いを履行していないことが直接の理由だと顧客に説明した。一方で中国法人は、この主張は事実無根であり、むしろオランダ側に巨額の未払いがあると反論している。対話が途絶えたまま相互不信だけが積み上がり、通常なら社内調整で収められるはずの支払いトラブルが、世界的な供給不安へと発展している。

この間、中国商務相と欧州委員会の通商担当委員がオンライン会談を行い、ネクスペリア問題への懸念と、企業主体での解決を促す考えを示した。オランダ政府も11月中旬には管理措置の停止を決定し、緊張緩和に動いている。ただ、中国側は依然として介入の完全撤回を求めており、企業ガバナンスを巡る法的枠組みは整理されていない。最先端ではないディスクリート半導体でさえ、欧州と中国の戦略的思惑がぶつかる舞台になっている。

日本企業はどこまで“政治リスクのコスト”を負えるか

ネクスペリアはロイター通信などに対し、ウエハー出荷を完全に止めたわけではなく、他地域の工場を活用するなど代替ルートで顧客への供給を維持すると説明している。それでも、自社計算では中国側には数カ月分の在庫がある一方、完成車メーカーからは近く生産を絞らざるを得ないとの報告が続く。以前の半導体不足を踏まえて在庫や調達先を分散してきた企業と、コスト圧力から十分な備えをとれていない企業とで、影響の度合いには開きが出つつある。

日本の自動車メーカーや部品サプライヤーにとっても、今回の事案は他人事ではない。パッケージング工程の一部を中国以外の地域に移す、複数のメーカーから同等品を認定しておく、支払い通貨や親会社の変更リスクを契約に織り込むなど、取れる選択肢はいくつかある。しかしいずれも、これまで「安くて確実」とされてきた汎用チップの調達コストを押し上げる方向に働く。短期的な採算と、中長期の安定供給をどうバランスさせるかという難しい判断が迫られている。

安価な半導体の供給網にまで政治と安全保障の影が差し込んだことで、企業はもはや「偶発的な一時トラブル」として片付けるわけにはいかなくなった。供給途絶のたびに生産停止のリスクを受け入れるのか、それとも在庫や代替ルートという形で保険料を支払い続けるのか。ネクスペリアを巡る対立は、誰がどこまでそのコストを負担するのかという問いを、世界の製造業に突き付けている。