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停止気味だった車載部品の発注画面に、在庫の緑色が戻り始めた。2025年11月9日、中国商務省がネクスペリア製半導体の輸出規制に民生用途（軍需でない日常機器向け）の例外を認めると発表したためだ。自動車メーカーや部品サプライヤーが直面する供給不足の緩和が期待される一方、所有権と運営を巡る対立はなお続く。
何が変わるのか、現場の視点
ネクスペリアはオランダ本社の半導体メーカーで、中国の聞泰科技（ウィングテック）が所有する。車の電装に使う汎用チップの比率が高く、製品の多くは中国で組立・出荷される。今回の例外は、民生用途に限り輸出を認める枠組みで、滞っていた受注の解消に直結する。
一方で、商務省は何を民生用と見なすかを具体的に示していない。運用は申請・審査・許可のプロセスになるとみられ、用途の説明やエンドユーザー情報など、企業側の書類整備が重要になる。適用範囲の曖昧さは、通関の現場でばらつきを生みかねない。
それでも、ドイツなどの企業は中国製チップの納入再開をすでに伝えている。自動車最大手の一角も、11月7日に供給の再開を確認した。短期的には、在庫の底上げと生産計画の再構築が進み、停止リスクを和らげる効果が出るだろう。
ねじれた所有と統治、続く緊張
発端は9月30日、オランダ政府がネクスペリアを管理下に置いたことにある。中国親会社への技術・生産移転の懸念から、欧州の経済安全保障を守る措置だと説明した。これに対し中国側は10月以降、同社製品の対外出荷を絞り、世界の自動車産業に影響が広がった。
所有は中国、拠点は欧州という“ねじれ”は、企業統治と国家安全保障の境界をあぶり出した。中国商務省は9日の声明で、EUが影響力を発揮しオランダに管理措置の撤回を促すことへの期待を示した。外交の圧力線は、供給の実務と地続きになっている。
例外が始まっても、所有権と運営を巡る対立が解けない限り、緊張は残る。生産地の分散や在庫の積み増しだけでは解けない“構造の揺らぎ”が、価格や納期の不確実性として現れやすい。企業の計画は、政治の振幅を織り込む前提に変わりつつある。
供給網はどう備えるか
当面の焦点は、電源管理や安全系回路などに使う基礎的なチップの確保だ。今回の例外により、注文残の解消や代替設計の一時停止など、現場の意思決定は軽くなる。一方で、審査に要する時間や追加の適合証跡づくりは、納期の新たなボトルネックになり得る。
企業側は、用途の説明責任を明確にしつつ、供給地の多元化やフォールバック生産の準備を並行させたい。許可の更新やロットごとの適用差に備え、部材の安全在庫や工程の柔軟化を再設計する発想が求められる。例外は特効薬ではなく、運用の安定が鍵だ。
輸出管理（国が特定品目の域外移動を制限する制度）は各地で広がり、材料や装置に及ぶ。今回も“ルールの運用”がサプライチェーンを左右した。民生と軍民デュアルの線引きが明確になるほど、現場の見通しは整い、過度な在庫積み増しは薄れていくはずだ。
工場の表示灯は通常色に戻りつつあるが、その明かりが安定するには、制度の揺れが静まる時を待つ。
