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接見を終えた弁護士が方針転換を告げたのは2025年11月14日。名誉毀損容疑で逮捕された政治団体「NHKから国民を守る党」（NHK党）の立花孝志容疑者（58）が「真実相当性は争わない」とし、謝罪と示談の意向を示した。同日、竹内英明・元兵庫県議の遺族側は示談の申し入れを拒否したと明かした。事態は、「発信の責任」を正面から問う局面に入った。
方針転換と謝罪の経緯
2025年11月9日、兵庫県警は立花容疑者を名誉毀損の疑いで逮捕した。11月10日には送検され、容疑は選挙の街頭演説やSNSでの発信に及ぶとされた。対象となったのは、竹内英明さんが生前に受けていたとする取り調べの有無などで、警察は虚偽の内容が拡散された疑いを指摘している。発言は選挙の熱気の中で飛び交い、その後もオンラインで尾を引いた。
逮捕前、立花容疑者は自らの発言に「真実相当性（真実と信じるに足る相当な理由）」があると主張していた。だが14日、接見した弁護人が動画で「真実相当性は争わない」と表明し、容疑の一部を認めて謝罪する方針へと舵を切った。社会に広がった言葉の影響を踏まえたとみられ、同時に遺族への示談申し入れにも動いたことが伝えられた。
この転換で、争点は「根拠の有無」から「責任の取り方」へ移った。刑事手続きの行方は捜査当局と司法の判断に委ねられるが、本人の姿勢の変化は、発信者としての自覚と被害の受け止め方に少なからぬ影響を与えるはずだ。加えて、同様の言論を支える周縁の言説にも、抑制の効果を及ぼす可能性がある。
遺族側が示談を拒否した理由
示談の申し入れが伝えられたのは14日夕。遺族側の代理人は取材に「受け入れられない」と明言し、厳罰を望む考えを示した。ここには、発信が生前と死後の双方で名誉を損なったという受け止めと、時間をかけて積み重なった中傷の重さがにじむ。謝罪の言葉だけでは回復しえない傷がある、という静かな線引きである。
示談は当事者間での被害回復を模索する枠組みだが、今回の発言は多数に向けられ、波紋は広範に及んだ。家族や関係者が日々応対した手紙や電話、画面越しの反応は、数の力で個人にのしかかる。私的な合意で全てを元に戻すことは難しいという実感が、拒否の判断の背景にあると読める。
刑事事件では、被害感情や被害回復の状況が量刑判断に影響することがある。だが今回、遺族は処罰感情を明確に示し、示談に応じない意思を固めた。手続きは粛々と進むだろう。一方で、発信によって形成された世論や評価が容易には解けない現実もある。名誉は社会が共有する「人の像」であり、崩すのは容易でも戻すのは難い。
「真実相当性」とは
真実相当性とは、名誉毀損（他人の社会的評価を下げる行為）で問われる違法性を弱めうる要素で、発言時に真実と信じる相当な理由があったかをみる考え方である。公的関心の高い事柄では、取材や資料、裏付けの程度などを総合して判断される。裏を返せば、憶測や伝聞のまま断定的に発信すれば、相当性は認められにくい。
今回、弁護側はこの主張を退き、謝罪に転じた。根拠の提示ではなく、被害の受容と償いに重心を置く判断だ。ネット空間では「誰かが言っていた」が瞬時に広まりやすい。だが法は、発信者に裏付けの責任を負わせる。主張を支える証拠がなければ、自由な言論の名の下でも免れない線があることを思い出させる。
選挙や政策議論の場でこそ、鋭い批判は必要だ。ただ、個人の名誉を損ねる表現と、検証可能な批判は異なる。今後の審理は、線引きの基準に具体的な輪郭を与えるだろう。結果は、政治的言論と誹謗の境目を考える上で一つの指標となり、私たちが日々交わす情報の扱い方にも静かに影を落とす。
言葉の後始末は、拡散の速度ほど速くない。示談拒否という選択が、その非対称を静かに映した。
