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潮の匂いが残る朝の浜に、威勢の掛け声が重なった。新居浜太鼓祭り最終日の2025年10月18日、川西地区の太鼓台が大江浜の会場に集い、観客は「差し上げ」を待ちわびていた。しかし「平和祭典」を掲げた今年の誓いは、禁じられたぶつけ行為によって揺らいだ。市長は遺憾の意を示し、祭りの信頼回復が問われている。
朝の高まりが一変した浜辺で
18日朝の大江浜では、太鼓台が定められた順で会場入りし、海風を切るように担ぎ手が進んでいた。地域の象徴を掲げる「差し上げ」に向け、観客が息をのむ気配が広がっていた。運行予定では川西地区の太鼓台が朝の時間帯に集まる段取りで、にぎわいは最高潮に近づいていたとみられる。
ところが2025年10月18日 9:30過ぎ、同地区の中須賀太鼓台が演技を終えた大江太鼓台に一方的に接近し、体当たりを繰り返した。現地での報道では、およそ1時間の間に40回を超える衝突が確認され、ロープを使ってかき棒3本が折られたとされる。会場の空気は緊張に包まれ、歓声は次第にどよめきへと変わった。
かきくらべは担ぎ手の熟練と統率が試される場であり、ぶつけ合いは明確に禁じられている。巨体の太鼓台同士が衝突すれば、装飾の損傷に限らず、人の安全も脅かされる。勇壮さと紙一重の危うさを孕む祭礼だからこそ、守るべき線があることを、今回の一連の行為が改めて浮かび上がらせたと映る。
「平和祭典」の誓いと現場の現実
新居浜市は10月初め、祭り関係者に「平和祭典」の徹底を呼びかけていた。市の要請は、事故や暴力的行為の未然防止、観客の安全確保、地域の誇りの継承を掲げる趣旨である。愛媛県警も例年、混雑時の事故や危険行為の回避を周知しており、行政と警察が一体で節度ある運行を求めてきた経緯がある。
それでも、18日の会場では禁じられたぶつけ行為が発生した。市長は「禁止されている行為により意に反する事態が生じたことは遺憾」との趣旨を示し、呼びかけが届かなかった現実を認めた格好だ。市や企業、太鼓台運営側が平和運行の実現に向けて協議を重ねてきたが、結果は苦いものとなったといえる。
一方で、川西地区では18日 8:30から大江浜のかきくらべが予定され、複数の太鼓台が順次会場に入る段取りだった。行事の進行に合わせた統制は機能していたが、単独の逸脱が土壇場で全体の空気を覆い尽くした構図である。現時点で、関係者に対する具体的処分や組織対応の詳細な公式発表は確認できていない。
祭りを守るために何が問われるか
太鼓台は地域の結束の象徴であり、世代を超えて技術と誇りを継いできた文化資産だ。見せ場の「差し上げ」や練りの妙技は、緊張と信頼の均衡で支えられている。だからこそ、ルール逸脱が生んだ損壊や混乱は、担ぎ手の安全、観客の安心、地域間の信頼すべてに波紋を広げる。今回の一件は、その脆さと向き合う契機でもある。
必要なのは、現場判断に委ねられがちな危険行為の抑止を、指揮系統と現地オペレーションの両面で仕組みに落とし込むことだ。入場順や演技時間の厳格化、緊急停止の合図と権限の明文化、違反時の即応体制など、運用の具体化が欠かせない。観客側への安全動線の確保や避難案内の見える化も併走させるべきである。
一部では処分や組織対応に関する情報が飛び交うが、現時点で公式に確認できるのは、市の平和祭典の要請と、当日の禁止行為が発生したという事実関係にとどまる。最終的な判断や再発防止策は、公的機関と運営側の発表を待ちたい。地域が誇る祭りを守るために、節度と矜持をどう取り戻すかが問われている。
