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秋の光が差し込むストックホルムの会見場で、革新の力がもう一度照らし出された。王立科学アカデミーは2025年10月13日、ノーベル経済学賞をジョエル・モキア（Joel Mokyr）、フィリップ・アギオン（Philippe Aghion）、ピーター・ホーウィット（Peter Howitt）の3氏に授与すると発表した。技術革新が成長を駆動する仕組みを解き明かした功績が、停滞の影を押し返す羅針盤として評価された格好だ。
創造的破壊が描く、成長の循環
発表は「イノベーション主導の経済成長の解明」を掲げた。過去二世紀にわたり、新しい製品や生産方法が古いものを置き換える循環が、生活水準や健康、暮らしの質を押し上げてきたという視点である。賞金は1100万スウェーデンクローナ。半分をモキア氏、残り半分をアギオン氏とホーウィット氏が分け合うことになった。
モキア氏は、歴史資料の精査を通じ、科学的理解と実践的知の相互作用が連鎖することで革新が自走化し、持続的成長が生まれる条件を示したとされる。新しい発見が次の発見を呼ぶためには、なぜ機能するかという説明力と、社会が新奇なアイデアを受け入れる開放性が要るという論点が中核にあると映る。
一方、アギオン氏とホーウィット氏は1990年代初頭に、企業が改良投資を重ねるたびに旧来の製品が競り負ける「創造的破壊」の数理モデルを提示した。破壊は雇用や産業構造に痛みを伴うが、長い時間軸では生産性の押し上げを通じて繁栄の土台を厚くする。その二面性を、委員会は改めて強調したといえる。
開放性と競争、政策が担う重み
「成長は当たり前ではない」。委員はそう釘を刺したうえで、脅威として市場支配の固定化、学問の自由の制約、知の地域分断などを挙げた。こうした阻害要因は、創造的破壊の歯車を鈍らせる。長期の厚みある成長を守るには、競争が機能し、新旧の入れ替わりが滞らない制度設計が要るという含意が浮かぶ。
一部報道によれば、アギオン氏は電話会見で脱グローバル化と関税障壁を「成長の障害」と指摘した。市場が大きいほどアイデア交換や技術移転が進み、健全な競争も働くという。欧州には、防衛や気候、AI、バイオなどで競争政策と産業政策の調和を探るべきだと呼びかけ、開放性を損なう政策への警戒感を示した。
ホーウィット氏も、関税戦争は市場規模を縮め、革新投資の誘因を弱めると批判した。製造業の回帰は政治的には映えやすいが、価値連鎖の分業を歪めれば成長力をそぐという見立てである。AIやグリーン移行で不確実性が増す局面だからこそ、開放的な競争と知の自由な往来を支える政策軸が重みを増している。
3人の横顔が示すもの
モキア氏はオランダ生まれで米ノースウェスタン大学の教授。アギオン氏はコレージュ・ド・フランスとINSEAD、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授を務める。ホーウィット氏はカナダ出身で米ブラウン大学の教授だ。発表は2025年10月13日に行われ、賞金配分は前述のとおりであると確認された。
経済史と理論が交差する今回の受賞は、成長の原動力が静かに、しかし絶えず入れ替わる現実を映す。成長の機械は油断すれば止まる。市場の独占化や知の囲い込み、地域ごとの断絶に目を凝らし、開かれた競争と学問の自由を保つこと。3氏の仕事は、その当たり前でない前提を現実の政策課題へとつなげている。
