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朝の薬局の前に、小さな列ができていた。2025年10月20日、あすか製薬が緊急避妊薬「ノルレボ」の薬局販売承認を得たと明らかにしたことで、国内で初めて処方箋なしの入手が現実味を帯びたためである。販売は第一三共ヘルスケアが担い、年齢制限や保護者同意は不要と報じられている。面前服用などの条件を伴いながらも、望まない妊娠を避けたい人にとってアクセスの扉が開く節目となる。
薬局で買えるまでの道のり
道は平坦ではなかった。厚生労働省は2017年に処方箋なし販売の是非を検討したが、安易な使用を助長するとの懸念が強く、OTC化は見送られた経緯がある。その後の議論を経て、2023年には処方箋なしの試験販売が始動した。現時点で確認されている範囲では、16歳以上を対象に限定的な店舗で始まった取り組みで、制度設計の検証が重ねられてきたと映る。
試験販売では、国内145カ所の薬局で「ノルレボ」が提供されたとされる。供給ルートは限られ、医師の診察と処方が前提だった従来の仕組みからの転換点を探る実証であった。小規模ゆえの偏りも指摘されたが、来店から服用までの流れ、カウンセリングの方法、服薬後の相談体制など、現場の運用に関する知見が積み上がったことは確かだとみられる。
あすか製薬は2024年に規制当局へOTC化の承認申請を行い、今回の承認に至ったと説明している。ブランドは先発品と同成分の「レボノルゲストレル」を用いる「ノルレボ」で、処方ベースで広く使われてきた薬である。2025年10月20日の発表は、その歩みが制度として形を得た瞬間であり、実装段階への移行を告げる合図として受け止められる。
販売の仕組みと条件
今回の承認で「ノルレボ」は「要指導医薬品」に区分される。すなわち、薬剤師の対面での情報提供と指導が不可欠で、購入者は薬剤師の立ち会いのもとで服用する運用が想定される。年齢制限や保護者の同意は求めない方針が伝えられており、アクセスの間口は広がる。一方で、販売開始日や取り扱い店舗の範囲は現時点で公表されておらず、具体化を待つ段階にある。
販売は第一三共ヘルスケアが行い、研修を受けた薬剤師がカウンセリングを担う。性行為の時期や服用可能な時間、併用薬の確認、服用後に異変が出た際の相談先など、短時間で押さえるべき論点は多い。面前服用の条件には賛否があるが、誤用防止と迅速な内服を両立させる意図がにじむ。プライバシー配慮と説明の質をどう確保するかが、現場運用の焦点として浮かぶ。
「要指導医薬品」という枠は、自由購入と完全な医療管理の間に橋を架ける仕組みである。これにより、深夜や休日でも入手できる店舗網が広がれば、時間との勝負になりやすい薬効の特性に合致する可能性が高い。他方で、地方や離島の店舗密度、在庫確保、薬剤師の勤務体制といった地理的・人的要件が、実質的なアクセス格差として残りかねない点は注意が必要である。
広がるアクセスと残る課題
権利擁護団体は、試験販売の規模が小さく、若年層や性暴力被害者の実情に届かないと批判してきた。処方箋の壁が行動の遅れを招き、服用のタイミングを逸するとの訴えも根強い。一方で、乱用や不適切な使用を懸念する声もある。直近のパブリックコメントではOTC化を支持する意見が97％に上ったとされ、社会の多数派はアクセス拡大を後押ししている構図が浮かぶ。
緊急避妊薬は、避妊せずに性交があった後、できるだけ早く服用することで妊娠の成立を防ぐ選択肢である。「ノルレボ」が含むレボノルゲストレルは、一般に72時間以内の内服が望ましいとされ、早いほど効果が高い。排卵抑制などが主な作用と説明され、妊娠の成立過程を遅らせることで確率を下げる。おおむね8割程度の予防効果が報じられており、時間との戦いという性格がにじむ。
制度が動き出すいま、問われるのは運用の細部である。面前服用の場でのプライバシー確保、学校や自治体との連携、深夜帯の入手性、費用負担、そしてアフターケアの設計が鍵になる。販売開始の具体時期が示されれば、現場は一気に準備段階へ入るだろう。
