小島秀夫10周年イベントで新作『OD-KNOCK』ティザー公開

暗い場内にノックの音が鳴り、赤い扉がスクリーンに浮かぶ。コジマプロダクション10周年記念イベント「Beyond The Strand」で、小島秀夫が手掛ける新作「OD – KNOCK」のティザー映像が初公開された。映画とゲームの境界を壊す、と語る試みはどんな恐怖を連れてくるのか。私たちはその扉を叩く音に、何を思い出すのだろうか。

赤い扉が告げる“ノックの恐怖”

2025年9月23日、東京・六本木の劇場に集まった観客の前で、「OD – KNOCK」は姿を現した。映像は扉の隙間に滑り込む一枚のカードから始まり、黒塗りで覆われた文書が不安を煽る。静かな部屋で女性がマッチを擦り、ろうそくに火を灯す。ノックが重なるたび、涙が頬を伝い、彼女の皮膚に“顔”のような痕が浮かぶ。演じるのはソフィア・リリス。目に触れる要素は少ないのに、質感と音が記憶の奥を叩き起こす。

小島は「自分の“ノック”という恐怖をデザインした」と述べ、同じ“OD”の枠でジョーダン・ピールらがそれぞれの恐怖を描く構想を明かした。つまり「OD – KNOCK」は大きな企画の一章であり、異なる語り手が異なる恐れを連ねる形式になる。キャストにはハンター・シェイファー、ウド・キアも名を連ねる。扉、マッチ、窓辺の小さなサイン。ティザーに散りばめられた符丁は、観客に“見落とし”を与え、考察を誘う仕掛けだと示唆された。

「映画とゲームの垣根」を壊すという宣言

小島は「映画とゲームの垣根を壊す」と語り、これまでのステルスや配達とは異なる“システム”に挑むと強調した。開発はXbox Game Studiosと進め、壇上にはフィル・スペンサーも登場した。会場で流れた映像はアンリアルエンジンで動く実機のフッテージ。質感の高い光と影、呼吸のように寄せては返す環境音が“体験の厚み”を押し出す。現時点で確認されている範囲では発売時期は示されていないが、「まだ言えないことが多い」という含みは、逆説的に“見たことのない遊び方”を予告しているように感じられる。

ホラーの作法に則れば、ノックの先は開けてはならない場所である。だが小島の設計は、その禁忌をあえてインタラクションに変える。観客だったはずのプレイヤーが、次の瞬間、被写体にも加害者にもなる可能性を抱く点が肝だ。かつて「P.T.」が提示した“視線の暴力性”を想起させつつ、今回は映画的な語りを実時間の操作に編み込み、境界そのものを体験として解体しようとしているのではないか。あなたは、そのノックに手を伸ばすのか、耳を塞ぐのか。

仕掛けられた現実――“スキャン”と“本物の音”

ティザーで映る部屋は、どこかで見たようでいて特定できない。小島は「各地の因縁のある場所をスキャンしていく」と語り、世界ではじめて“お化けの3Dスキャン”にも挑むと冗談めかして明かした。さらに、スタジオの深夜に鳴るという謎の音を素材として採用したことも示した。恐怖の出所をフィクション外から取り込むやり方は、舞台装置に“実在の手触り”を重ねる試みだ。観客は作り物の部屋を見ているはずなのに、耳元だけが現実に引き戻される。こうした感覚の段差が“ノック”の不安に輪郭を与える。

撮影そのものはこれから本格化するといい、開発は誰もやったことのない“特殊なシステム”で進めているとされた。進捗を率で語れないのは、従来の工程管理に当てはまらないからだろう。確認されている範囲では、ティザーは“序章”に過ぎない。だが序章だからこそ、扉の向こうにあるのは演出なのか、操作なのか、あるいはあなた自身の記憶なのかという問いが残る。現実をどこまで作品に引き込んでよいのか。小島が叩く“ノック”は、スクリーンのこちら側にいる私たちに向けられているのではないか。