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阿部正信原子力部長は記者団の前で工程表をなぞり、「5年は厳しい」と言葉を置いた。新規制基準で義務づけられた特定重大事故等対処施設（原発の重大事故やテロに備える別棟設備）の設置期限について、延長を求める考えを示したのである。女川原発2号機は完成見通しを2028年8月へ見直しており、設置期限の2026年12月以降は運転停止が避けられない。制度と現場のずれが、運転の継続と地域の安心の間に影を落とし始めている。
現場の声と延長要望
阿部氏は2025年11月、再稼働1年の節目に応じた取材で、先行プラントの実績から見ても工程は当初から相当にタイトだったと語り、「5年は厳しい」と率直に述べた。背景には建設業の時間外労働を厳格化する働き方改革がある。熟練技能者の手当てや夜間・連続作業の制約が強まり、複数の大型工事が同時期に重なると、人員や重機、検査枠の割り付けが崩れやすいという現実がある。
同社が期限の延長を求める狙いは、停止期間を短くし、工程を無理なく積み上げる余白を確保するところにある。特重施設は安全上の要である一方、配管・電源・制御の切替を伴うため、作業を急ぎ過ぎれば品質管理のリスクが高まる。停止を挟んで工事を進める方法もあるが、電力の安定供給や地域経済の負荷を考えれば、工程の密度を適正化する議論は避けて通れない。企業側は根拠を示しつつ、透明なプロセスで理解を広げようとしている。
女川2号機の歩みと足元の工程
女川2号機は2024年10月に原子炉を起動し、同年12月に営業運転へ移行した。長い停止を経た再出発であり、地震・津波対策や電源多重化など、膨大な安全対策工事を積み重ねてきたことが下支えとなった。運転実績は1年を超え、設備や人の勘所が戻りつつあるが、特重施設という最後の大工事が工程全体の律速段階として残っている。
その特重施設の完成見通しは、2028年8月へと再設定された。働き方改革で長時間の連続施工が難しくなり、溶接・耐火区画の改修、ケーブルトレイの敷設、試験・検査の段取りなど、地味だが手離れの悪い作業に時間がかかる。品質を落とさずに工程を繋ぐためには、協力会社の要員計画や資材調達の山谷をならし、検査機関との調整を前倒しで重ねる必要がある。現場はその現実に合わせ、手順の磨き込みを続けている。
一方、設置期限は2026年12月に設定されている。延長が認められなければ、その時点から工事完了まで運転を止めることになる。停止中は保守と並行して工区を広げやすい利点もあるが、地域の電源構成やコストには跳ね返る。会社側は安全最優先の姿勢を崩さずに、系統運用や燃料調達の見通しとあわせて、停止期間の影響をできるだけ薄める打ち手を探っている。
制度の趣旨と揺れる現場
特定重大事故等対処施設は、原子炉本体が使えない事態でも冷却や注水などを続けられるように、別棟・独立電源で備える設備群の総称である。新規制基準は、その設置を厳格に求め、設計や工事計画の認可から5年以内という目安を設けてきた。趣旨は明確だ。最悪の事態に対しても、多重防護の最後の砦を確実に機能させることである。
ただ、制度の強靱さを保ちながら、現場の労働環境や施工能力の変化に向き合うのもまた現実だ。工程を延ばせば安全余裕は増すが、停止が長引けば費用と電源の余力が削られる。延長の可否は、規制側が安全要件の骨格を崩さずに判断を下せるか、事業者側が工程と資源の根拠を示せるかにかかっている。手順を整えた先に、作業のリズムと地域の安心がゆっくり重なる景色が見えてくる。
