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夜の画面越しに交わされたやり取りは、思いのほか静かで熱かった。2025年10月30日、サム・アルトマンCEOが同僚のJakub・Wojciechとともにライブ配信で「2028年までに完全自動AI研究者」を掲げ、研究のやり方そのものを変える展望を語った。直前の組織再編で資本と統治の枠組みを組み替えたOpenAIが、資金・インフラ・安全性の三つ巴でどこまで踏み込めるかを試される節目に見える。
配信で示した道筋と慎重なトーン
配信は観客の質疑を交え、率直な語り口で進んだ。アルトマン氏は各ユーザーに最適化された「パーソナルAGI」を中核に据え、研究の作法そのものを自動化の射程に入れる構想を繰り返し強調した。現時点で確認されている範囲では、2026年にインターン相当のAI研究者、2028年に完全自動のAI研究者という節目を示し、小さな発見から中規模の発見へ段階的に伸ばす青写真を語ったとみられる。
同時に、彼は目標の不確実性も明示した。計画は配信内容に強く依存し、数値や時期の詳細については一次資料の公開や書面化を待つ必要があると受け止められる。数十万台規模のGPUを束ねる計算資源の前提に触れたとされるが、具体的な容量や時期の断定は避けられた。熱気と慎重さが交錯する語り口が続き、過度な約束よりも「できない可能性」を含めて社会に開いていく姿勢がにじんだ。
再編で見えてきた体制と資金の重み
配信の背景には、10月28日に発表された再編がある。OpenAIは非営利のOpenAI Foundationを統治の要とし、営利のOpenAI Group PBCが製品と資金調達を担う二層構造を整えた。発表によれば、Microsoftは再資本化後に約27%の持分（希薄化後ベース）を保有し、従前の約32.5%から整理される。さらにAzureに対する追加の2,500億ドルの購買契約など、長期の協業条件が明示された。構図は「非営利の統治」と「営利の機動性」を両立させる設計と映る。
一方で、評価額や配分の含意をめぐる報道には幅がある。たとえば英ロイターの論考は、再編でMicrosoftの影響力が相対的に薄まり、OpenAIがより広範な投資家からの資本調達に自在さを得たとし、足元の評価額を5,000億ドル規模と伝えた。Azureへの巨額コミットや収益分配の延長、一部独占条件の見直しなど、提携の再定義が資本コストと交渉余地を押し上げるという見立ても示されている。数字の揺れはあるが、主要各紙は「PBC化」「非営利の統治」「パートナー継続」の三点ではおおむね一致している。
インフラの現実と「自動研究」への課題
AI研究者の自動化は、アルゴリズムだけでは完結しない。膨大な計算資源、電力、冷却、半導体の安定供給が不可欠で、データセンターの設計から運用までを一体で最適化できるかが速度とコストの分水嶺となる。配信では大規模な増強イメージが語られたとされるが、総容量や単価の具体は未確定だ。ゆえに、目標年次と能力水準を評価するには、外部の検証手続き、安全策、運用ガバナンスをどのレベルで制度化できるかが鍵となる。第三者の評価や公開データセットでの再現性確保、段階ごとの監査など、社会に開いた説明責任の設計が説得力を左右していく。
本質の論点は、モデルに「目的設定→仮説形成→実験計画→検証→反省」という研究の循環をどこまで自律的に担わせるかに尽きる。2026年に小さな発見、2028年に中規模の発見という目安は、同時に「失敗の扱い」と「境界条件」を明記してはじめて意味を持つ。安全性の観点では、能力獲得の速度だけでなく、誤作動時の封じ込めや悪用耐性、データ出自の透明性といった要件が重みを増す。組織再編で得た資金調達の自由度を、計算資源の確保と安全策の実装へどう橋渡しできるか。ライブの熱気が冷めた後にこそ、設計の質が問われる局面だとみられる。
