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タブの隙間を埋めるようにAIが並走する――検索スタートアップのPerplexityが2025年10月3日、AI搭載ブラウザー「Comet」を無料化した。Chromeに挑む本命は、読む・調べるにとどまらず、ページ操作やタスク実行まで担う“相棒”である。7月の限定公開から一気に間口を広げ、覇権の座を巡る流れに小さくないうねりが加わったと映る。
無料化で何が変わるのか
Perplexityは2025年7月10日にCometの限定公開を始め、ウェイトリストには数百万人が並んだと説明してきた。そのCometが2025年10月3日、全世界で無料ダウンロード可能になった。まずは“使える人を増やす”という単純だが強力な戦術に舵を切った格好で、製品の存在感は一段と濃くなるとみられる。
限定公開期は最上位プラン中心の提供だったが、無料化で入口は平等になった。AIに支援を委ねる作法が広がるほど、日常の調べ物から仕事の下調べまで、ブラウザーに求める役割が変わっていく。検索→クリック→再検索という往復運動から、問い→要約→実行という一直線の流れへ。無料化はその体験を一気に普及させる導火線である。
では、誰に有利なのか。ユーザーにとっては時間が返ってくる。一方でPerplexityにとっては、AIが主役のブラウジングという新しい分配の土台づくりになる。利用者が増えれば増えるほど、同社が描く“問いから始まるウェブ”の設計思想は標準に近づく。偶然ではなく、無料化は必然の一手と映る。
AIが主役のブラウジング体験
Cometの核は、ページの脇で常に待機するサイドカー型アシスタントだ。開いた記事の要点抽出、出典付きの解説、関連情報の横断、フォーム入力やスクロール・クリックといった操作の代行まで、従来の拡張機能の寄せ集めでは届かなかった“面倒の肩代わり”をまとめて引き受ける。AIがページ内の文脈を踏まえて動くことが前提の設計である。
さらに“バックグラウンドアシスタント”と呼ぶ機能も加わった。複数のタスクを裏で回し、進捗をダッシュボードで知らせる。長いフォームの下書きや比べ買い、日程調整のやり取りなど、ユーザーが必要なときだけ最後のボタンを押す、という使い方が想定されている。AIは助言にとどまらず、現場で手と足を動かす存在へと変わりつつある。
有料の連携策としては「Comet Plus」がある。これは月額5ドルの単体サブスクリプションで、ProやMaxには追加料金なしで含まれる。仕組みの要は、単なる記事の“読み放題”ではなく、AIが要約や引用、操作を行う場面まで出版社へ収益が配分される点だ。人が読む、AIが参照する、エージェントが実行する――三つのトラフィックを束ねて価値を返す発想が浮かぶ。
巨大シェアの壁と勝ち筋
現状の壁は高い。9月時点で世界のブラウザー市場はChromeが約72％を握り、他を大きく引き離している。既存の“青いリンク”に最適化されたウェブの重力は強く、並の挑戦者では跳ね返される。Perplexityはその重力を逆手に取り、検索とブラウズと実行を一本の体験に溶かし込むことで、選ぶ理由を明確にしようとしている。
無料化は、配布と学習の好循環を作る。まずは導入の摩擦を消し、日々の行動の中にAIの居場所を確保する。日常に定着すれば、エージェントが受け持てる仕事は増える。すると“AIに適した記事の作り方”や“AIに渡しやすい業務”が整理され、出版社とユーザーの双方に新しい効率が生まれる。プロダクトの改善速度も、利用の広がりに比例して加速するはずだ。
ブラウザーの主役交代は一朝一夕ではない。それでも、問いから始まり実行で終わるという流れを作れた者が、次の標準を定義する。Cometの無料化は、その主導権争いのスタート地点を前へ動かした。検索の覇権と広告の地図がどう塗り替わるのか。局面は、ユーザーの手元と画面の端で静かに動き始めている。
