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秋の雨が上がった官邸前に、新しい顔ぶれの車列が滑り込んだのが2025年10月21日である。翌22日、初閣議を経て各大臣に手交された首相指示書の中身が明らかになった。柱は「責任ある積極財政」と歳出・歳入改革の両立、そして対日投資の審査高度化である。経済運営の舵を切りつつ、安全保障・外交・医療や働き方まで横断する設計図が、静かに全体像を帯びてきた。
「責任ある積極財政」と改革の同時進行
片山さつき財務相が受け取った指示書には、「責任ある積極財政」の考え方に基づく経済・財政運営を進めることが掲げられたとされる。同時に、経済・財政新生計画に沿って歳出・歳入の両面で改革を推進し、経済再生と財政健全化の両立を図る方針が示されたという。景気下支えと財政の持続可能性を天秤にかけるのではなく、両輪として回す狙いが浮かぶ。
具体策では、租税特別措置や補助金の適正化を進めること、税と社会保障の一体改革の一環として、中低所得層の負担に配慮した給付付き税額控除の制度設計に着手することが指示に含まれたとみられる。選別と分配の線引きにメスを入れ、可処分所得の底上げを通じて消費と投資の回復を狙う構図である。
また、外国からの資本流入を巡っては「対日直接投資審査を高度化する枠組み」の検討が明記されたとされる。連立合意に盛り込まれた「日本版CFIUS」を念頭に、国家安全保障と産業競争力を同時に守る線引きを設計する発想だ。門戸を閉ざさず、しかし門番を賢く強化するという方向が透ける。
成長戦略の司令塔をめぐる線引き
全大臣宛ての冒頭では、「今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る」と記したうえで、内閣一体で政策を推し進める決意が示されたという。成長戦略の設計と実行は内閣の中枢課題であり、予算編成の基本方針策定を担う経済財政諮問会議の機能強化や、財政の単年度主義の弊害是正にも踏み込む構えが伝わる。
一方、成長戦略の担当体制には注意が要る。現時点で官邸が公表する閣僚名簿では、日本成長戦略担当は黄川田仁志であり、城内実は経済安全保障や知的財産・宇宙・人工知能戦略などを所掌している。指示書の細部や役割分担をめぐっては報道間に揺れがあり、正式な所掌の線引きは官邸公表情報を基準に見る必要があると映る。
それでも、成長戦略の方向性自体は鮮明だ。より少ない労働時間でより多くの賃金を得る「稼げる日本」への変革、兼業・副業の促進、最低賃金引き上げの加速、意欲ある高齢者の就労支援、望まない非正規の解消など、労働市場の硬直をほぐす施策が並ぶとされる。賃上げを賃金決定だけに委ねず、生産性と移動の仕組みから作り変える視点がうかがえる。
安全保障と外交、そして暮らしへ
防衛分野では、小泉進次郎防衛相への指示として、国家安全保障戦略などに基づく防衛力の抜本的強化が明記されたという。民生技術の積極活用を含め、防衛生産・技術基盤の強化を打ち出した点は象徴的である。サプライチェーンや人材の細部にまで手を入れ、平時からの備えを厚くする狙いが広がっている。
対中関係では、茂木敏充外相に対し「建設的かつ安定的な関係」の構築を進める一方、日本として主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求める姿勢を貫くよう指示したとされる。戦略的互恵を前提としつつ、海洋や経済分野の摩擦に備える二面性の舵取りである。外交と経済安保の接点を丁寧に詰める段階に入ったとみられる。
医療制度では、全世代型社会保障の構築を掲げ、データに基づく行政運営のメリハリを強める方針が示されたという。自己管理を主眼に置いた健康維持の仕組みづくりや「攻めの予防医療」により、医療費の適正化と担い手の拡大を両立させる考え方である。投資促進と生活保障を対立させず、暮らしの底力を引き上げる設計に踏み込んだと映る。
組閣から一夜。21日の内閣発足が新体制の起点だとすれば、22日に浮かび上がった指示書は、現場を動かす羅針盤である。制度の細部や所掌の境界はなお調整が続くが、狙いは明快だ。成長と分配、開放と安全保障、現在と未来の均衡点を、日本流に探る作業が始まっている。
