本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。[続きを表示]ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
農林水産省が、自動走行トラクターなどの導入を見据えた農地整備を各地で本格化させている。農地を大きな区画にまとめ、機械が方向転換しやすい農道や広い畦、地中に埋めた水路、通信設備まで一体で整える計画だ。深刻な担い手不足のなか、限られた人手で広い面積を管理するための基盤づくりでもある。静かに走る無人トラクターの背後で、農地そのものの姿も変わりつつある。
機械が走りやすいほ場へ、現場で進む工夫
多くの水田や畑は、家ごとに細かく区切られ、作業機の幅より狭い畦や曲がりくねった農道が残っている。こうした形のままでは、自動走行農機が安全に走る余地が限られ、転回のたびに人が付き添う必要がある。そこで農地をまとめて大区画にし、直線的な農道や広い畦を確保することで、機械が一定の速度で止まらずに作業できるようにする狙いだ。
水路を地中に埋設する整備も進む。露出した用水路は機械の落下や転倒の危険があるうえ、畦の幅を圧迫してきた。暗渠化することで転落リスクを減らしつつ、畦上を自動走行機が行き来できるようにする。従来はスコップで行っていた水止めやゴミ取りも、センサー付きゲートと組み合わせれば遠隔監視でこなせる余地が生まれる。
自動走行を安定させるには、人工衛星からの測位情報や遠隔監視のための通信環境も欠かせない。農水省は総務省と連携し、ローカル5Gなどを使ったロボットトラクターの実証を各地で進めてきた。しかし、基地局や光ファイバーの整備には多額の投資が必要で、大規模法人と個人農家で負担力の差も大きい。誰がどこまでインフラ費用を担うのかは、現場の大きな関心事になりつつある。
法制度で支える自動走行農機、農水省のねらい
農水省は2020年、自動走行農機に対応した農地整備の手引きをまとめ、23年に改定した。水田や畑の設計基準を補う技術資料として位置付け、ほ場の区画サイズや畦幅、旋回スペースの考え方を具体的に示している。完全無人運転だけでなく、運転席に人が乗ったままハンドルだけを自動制御する段階も想定し、現場が段階的に自動化を進められるよう配慮している点が特徴だ。
24年10月には、スマート農業技術活用促進法が施行され、スマート技術を使った生産方式や機械開発の計画を国が認定する制度も始まった。認定を受けた農業者や企業は、融資や税制で優遇される。25年5月時点で、開発供給に関する計画だけでも累計39件が認定されており、自動走行農機向けのセンサーや制御装置の開発も支援対象となる。インフラと機械の両輪を同時に進める構図だ。
一方で、これらの制度を活用しやすいのは、まとまった面積を持つ法人経営や農業組合になりがちだ。小規模な家族経営にとっては、申請手続きや自己負担分の確保が重くのしかかる。農地の集約や区画整理は、隣近所との調整を含めて時間がかかる作業であり、法律や手引きが整っても、現場で形になるまでには長い歳月を要する。技術革新のスピードと、土地改良の歩みのギャップをどう埋めるかが課題となる。
省力化の期待と地域格差、問われるコストの分担
自動走行農機や関連システムは、既に一定の広がりを見せている。22年7月時点で、走行経路を画面に表示するGNSSガイダンスは約2万8千台、ハンドルを自動制御する装置も約1万8千台が出荷されている。直進や作業の重なりを気にせず走れることで、少人数でも広い面積をこなせるようになり、経験の浅い就農者でもベテランに近い精度で作業しやすくなると期待されている。
とはいえ、こうした恩恵をすべての地域が等しく享受しているわけではない。北海道では17年度末時点で、光ファイバーが利用できる農地は全体の51.7%にとどまると試算されている。大規模で平坦な産地ほどインフラ整備は進みやすいが、中山間地の小さな田畑では、道路や通信設備の更新コストが相対的に高くつく。自動走行前提の設計が進むほど、取り残される地域が出ないかという懸念も根強い。
国の補助や融資制度があっても、最終的には地方自治体や土地改良区、農家自身が維持管理費を負担する構図は変わらない。事故防止のルールづくりや、機械を扱う人材育成、データの扱い方といった課題も積み残されたままだ。農作業の自動化は、担い手不足に対する有力な処方箋になり得る一方で、その前提となる農地とインフラの整備コストを、誰がどのように分かち合うのかという問いを、私たちに突きつけている。
