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ラファのがれきの隙間から救助隊の掛け声が跳ね返る。停戦から数週間、地上の砲声は遠のいたが、地下では小隊単位の戦闘員が取り残され、出口のない綱引きが続く。イスラエルは自由通行を拒み、ハマスは降伏を否定。次の段階に進みたい仲介側の思惑と、現場の膠着がぶつかっている。停戦全体の成否は、この小さな袋小路の扱いに左右されつつある。
地下に取り残された小隊
南部ラファでは、独立した複数の小隊が前線背後の地下トンネルに閉じ込められている。指揮系統から切り離され、食料や水の補給も途絶えがちだと伝えられる。イスラエル側は戦闘員を歩かせて対側へ戻すことを認めず、ハマス側は武器引き渡しや投降を拒む。両者の主張は互いに譲れず、停戦の枠組みの中で位置づける術が見つからない。
米国の仲介チームはこの袋小路を「次段階への試金石」と見ており、現地での協議を重ねている。焦点は武装解除の扱いと安全な退避経路の設計にあるが、武器を手放せば報復の恐れが残り、通行を認めれば戦力の回復につながるというジレンマが消えない。地下での孤立が長引くほど、偶発的な交戦や救出失敗のリスクは高まる。
現時点で小隊の正確な数や位置は確定していない。ただ、停戦後に設けられた管理線の東側にイスラエルが残置し、西側はハマスが統治機能を再建しつつあるとされる。地下の小隊は、その境界に縫い留められたまま身動きが取れず、地上の政治工程から取り残された存在になっている。
揺れる停戦と「イエローライン」
停戦の初期枠組みでは、イスラエル軍が「イエローライン（暫定的な撤収線）」まで後退し、人質・受刑者の受け渡しを段階的に進める設計になっている。線引きは地図上の合意が先行し、現地では標識やコンクリート障壁の整備が追いつかない区間も残る。境界が曖昧な場所ほど、誤認やすれ違いから小規模衝突が起きやすい。
その緊張は、ときに停戦の縫い目を裂く。2025年10月19日、ラファでイスラエル兵が死亡し、直後の空爆でパレスチナ側に多くの死者が出たと報じられた。発効から間もない停戦が一時大きく揺れたが、関係各国が火消しに動き、崩壊は辛うじて回避された。地上の線は細く、引き直しも難しいことが露呈した出来事だった。
一方で、市民の暮らしは線の両側で対照的な速度で戻りつつある。西側では行政と救援の再開が進み、東側では軍管理や立ち入り制限が残る。境界そのものが恒久化する懸念も語られるが、停戦合意はあくまで段階的後退を前提に組まれている。小隊の処遇は、その段取りを乱さずに進められるかの試験紙でもある。
第2段階の条件と外交の綱渡り
合意の第2段階には、国際治安部隊（ISF、治安維持のための多国間部隊）の展開、ハマスの武装解除、イスラエル軍のさらなる撤収が含まれる。いずれも複雑な連動条件を伴い、現場の安全確保と政治的保証が揃わなければ動かせない。地下の小隊をどう扱うかは、この三つ巴の工程の出発点にあたる。
米側の特使らはエスカレーションを避けつつ、具体案の詰めに入っているとされる。例えば、限定的な退避通路の設定、武器の封印と引き渡しの検証、越境時の身柄保全など、軍事・警察・司法の境界にまたがる設計が求められる。どれも停戦の骨格を壊さない微調整の積み重ねで、拙速な一手は報復連鎖を招きかねない。
戦後秩序の設計図は大づかみの線で描かれるが、実際に停戦を生かすのは地下の数十メートルで起きている細部の処理だ。小隊の安全な処遇と検証可能な武装解除が両立すれば、第2段階への道は開ける。逆に一つの失敗が、合意全体の信頼を削る。がれきの静けさは、不安定な均衡の上に保たれている。
