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2025年11月4日、さいたま市の私立埼玉栄高校グラウンドで2024年11月に起きた横転事故をめぐり、埼玉県警が当時運転していた元男子生徒（17）を自動車運転処罰法違反（過失致死傷）の疑いで書類送検した。整備用の軽乗用車が深夜に横転し、助手席の生徒が死亡した出来事だ。学校の安全管理と生徒の行動が交差する重い問いが、いま改めて突きつけられている。
深夜のグラウンドで何が起きたのか
土の匂いが残るグラウンドに、夜風だけが走っていたという。照明は落ち、のり面の影が濃い。そんな静けさを破ったのは、整備用の軽乗用車が土の斜面へ乗り上げ、横転した音だったとみられる。現場に居合わせた友人の通報で、緊急搬送が始まった夜の気配が浮かぶ。
事故が起きたのは2024年11月16日深夜だ。男子生徒4人が乗った整備用の軽乗用車が校内ののり面に乗り上げて横転し、助手席にいた当時17歳の生徒が頭部などを強く打って死亡、後部座席の1人も軽傷を負った。校内での出来事でありながら、結果は痛ましいものとなった。
そして2025年11月4日、捜査は一区切りを迎えた。当時16歳で運転していた元男子生徒（17）が過失致死傷容疑で書類送検された。本人は「スリルを味わうために運転した」と認めているとされ、軽い衝動が命を奪う危険へ直結する現実が、改めて露わになったと映る。
鍵と車、管理の隙間
横転した車はグラウンド整備のために監督やコーチが使う目的で購入されたものだとされる。ナンバープレートのない状態で構内に置かれ、鍵は車内に置いて管理されていたという。運転するのは教職員に限られていたが、その想定は深夜の校内で外れていた可能性がある。
事故当時の聞き取りでは、生徒側から「過去にもグラウンドで運転した」という趣旨の話が出ていた。寮生活の生徒が夜間にグラウンドへ向かったという証言も報じられている。紙の上の運用ルールと、現場での実態。そのわずかな段差が、安全の境界線を崩す起点になったとみられる。
県警は学校側の管理状況も含め、事故に至る経緯を調べているとみられる。鍵の保管方法、車両の止め方、夜間の見回り、部活動の指導体制。どこで止められたのか、どこが見過ごされたのか。小さな綻びが重なり、取り返しのつかない線を越えた過程が、少しずつ輪郭を帯びてきた。
常態化の疑いと再発防止への道
一部報道によれば、事故以前から一部の生徒が夜間にグラウンドで車を走らせる行為が常態化していた可能性が指摘されている。事故の約1か月前の動画が存在するとの情報もあり、遊びの延長が危険の感覚を麻痺させた構図が浮かぶ。見過ごされた日常が、重大な非日常へ裏返ったといえる。
学園側は事故後、外部の専門家による第三者委員会を設置し、経緯や管理体制の検証を進めているとされる。現時点で確認されている範囲では、整備用車両の運用ルールや鍵の管理方法の見直しが焦点に上る。制度の設計と現場の運用、その距離をどう埋めるかが再発防止の核心だ。
亡くなった生徒の時間は戻らない。ナンバーのない小さな車が横転した夜から、1年が過ぎた。静まり返ったグラウンドに残る轍は薄れつつあるが、問いは消えない。安全は誰が、どこで守るのか。答えは学校だけでなく、地域と大人たちのまなざしの中で磨かれていくのかもしれない。
