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電動化で静けさが価値になる車内。その静寂を支える基幹部品が変わろうとしている。サンデンは自動車用電動コンプレッサーで世界初とする新構造を開発中だ。低ノイズと低コストを両立し、熱マネジメントの効率も高める狙いである。2029年の量産化を見据え、実装への道筋が動き出している。
静けさを競う時代、圧縮機から変える
市街地の交差点にEVが滑り込む。エンジン音がない車内では、空調機の作動音までが快適さを左右する。2024年8月27日、サンデンは次世代電動コンプレッサーの研究開発が公的支援に採択されたと公表し、自動車用冷媒圧縮機として世界初となる革新的な圧縮・電動技術を採り入れる方針を示した。目指すのは、静粛性の向上とコスト低減、そして高効率化の同時達成である。
従来の主流は二枚のスクロールが渦を描くように圧縮する構造だ。もともと静粛性は高いが、エンジン音が消えたEVではわずかな振動や唸りが存在感を増す。サンデンは運転効率の高い回転域を広げ、NVH（騒音・振動・不快感）の低減を狙う。圧縮効率とモーター効率の双方を引き上げる構想で、詳細な機構は現時点で非公表としつつ、課題の芯に切り込む姿勢がうかがえる。
熱マネジメントの要であるコンプレッサーは、車両の電力消費に直結し、航続距離や快適性を左右する。とりわけ暖冷房やバッテリー温調が重なる実使用では、1ワットの積み重ねが体感の差につながる。静かで効率の高い圧縮技術が確立すれば、快適性と電費の両立というEVの宿題に一歩答えることになる。車内での会話や音楽のニュアンスまで守る取り組みと映る。
コストの壁を越え、量産の現場へ
静けさだけでは量産は動かない。サンデンは部品点数の削減と独自工法の開発で製造コストの低減も図る。開発は2024年から2025年にかけて進め、2029年の量産化を計画する方針だ。量産時の歩留まりや品質安定を想定したプロセス設計まで射程に入れ、製品の「作りやすさ」を同時に磨く。設計と製造を一体で詰める、ものづくりの王道が貫かれている。
同社は過去にスクロール式コンプレッサーを世に広めた蓄積がある。世界初の新構造と位置づける今回の挑戦は、その系譜を更新する試みと言える。量産化までの数年で、試作評価と耐久・信頼性の確立、ライン適合の検証が焦点になるだろう。一部報道ではノイズ低減や部品点数削減の大きさが伝えられているが、同社は数値の詳細を公表していない。現時点で確認されている範囲では、効率・静粛・コストの三点を柱に据えて開発が進む。
空調はEV商品力の中核へとせり上がっている。寒暖の厳しさに加え、車内の静けさを求める声は世界で広がる。だからこそ、圧縮機という見えない部品の革新が、ユーザー体験を直接変える。量産開始が見込まれる2029年が近づくにつれ、車内の空気感はさらに澄むのか。新構造のベールが解けるその時、EVの定番が静かに塗り替わる光景が浮かぶ。
