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北署の受付に、血の付いた刃物のようなものを握った男が一人で現れた。「家族3人を殺した」。10月31日の供述を起点に、札幌市北区の住宅から男女3人が倒れて見つかり、病院で死亡が確認された。逮捕されたのは無職の中村純一容疑者（41）。上半身を中心に複数の刺し傷が確認され、3人の死因はいずれも出血性ショックだった。身内の間で起きた急激な破断が、静かな住宅街の空気を変えた。
自首の一言から、現場の検証へ
同日昼前、「30分前に家族3人を殺した」と話した容疑者の案内により、警察は北区の2階建て住宅1階で男女3人を発見した。逮捕容疑は姉の川村千恵子さん（55）に対する殺人で、容疑者は「ナイフで刺した」と認めている。室内からは刃物が押収され、捜査員が玄関付近や室内の動線を丁寧に確かめた。指先の動きが止まるたび、記録用のフラッシュが小さく弾け、そこに暮らしの痕跡と凶行の時間差が重なって見えた。
3人の体には首や胸など上半身を中心に刺し傷が複数あり、司法解剖でいずれも出血性ショックと判定された。容疑者は姉に強い殺意を抱いていたとされ、警察は両親の死への関与も視野に裏付けを急ぐ。名前が判明したのは、会社員の父・中村道紀さん（68）と、母・美枝子さん（83）。現場から署までの短い移動のあいだに、何が整理され、何が断ち切られなかったのか。検証は足取りと時間の隙間を埋める作業になっている。
積み重なっていた家族の軋み
容疑者は過去に母親への暴力容疑で逮捕されていたとの報道がある。金銭を巡る行き違いが背景にあったとされ、家庭内の緊張は断続的に続いていた可能性がある。家の出入りを知る人は「まだ信じられない」と驚きを語るが、家族の内側で起きた小さな軋みは外からは見えにくい。自首という選択は、事後の責任の取り方であると同時に、行為と向き合うための最後の手段のようにも映る。
一方で、捜査は淡々と事実の接点を拾い上げている。押収品の鑑定、傷の位置と深さ、搬送までの経路。短い時間に生まれた歪みを、計測可能な情報に置き換える作業だ。家族の呼称で語られてきた3人は、記録上の氏名と年齢、そして死因へと変換される。紙の上で整うほど、暮らしのままならなさが際立つ。捜査関係者の口調は抑制的だが、目の前の事実は容赦なく、時系列の上に積み重なっていく。
変わったのは家の中だけではない
規制線が張られた住宅街では、見慣れた通りに警察車両が並んだ。足早に通り過ぎる人、遠巻きに立ち止まる人。名前が公表され、容疑が明らかになっても、近所の記憶の中の3人は生活の姿で残り続ける。現場検証が終わり、テープが外れても、敷地の内と外の時間はしばらく重ならないだろう。夕方の冷え込みが戻る頃、玄関に残る靴跡と光の粒だけが、そこで何があったかを静かに物語っていた。
