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巻き出された透明フィルムが静かに走り、薄い膜が幾層にも重なっていく。積水化学工業が進めるペロブスカイト太陽電池の量産化計画が、いよいよ実装段階へ踏み出している。2025年度までに製造開始、27年中に100MW級の製造ライン稼働、30年度にGW級の体制構築という工程が示され、建物の壁面や軽い屋根にも電力を届ける道筋が具体性を帯びてきたと映る。
幅広化に挑む現場の手つき
同社はこれまで、30cm幅のフィルム型セルを全工程ロール・トゥ・ロールで連続生産できる工程を確立してきた。耐久性は10年相当、発電効率は15％級とされ、軽く曲げられる特性が強みだ。搬送しながら塗布と乾燥を繰り返す生産は、装置の微妙な温度や速度の揺らぎが性能に直結する。現場には、塗布の筋を消し込むためにノズルの角度をわずかに追い込む技術者の姿が浮かぶ。
次の焦点は大型化である。現時点で確認されている範囲では、幅が広がるほどミクロン単位での均一塗工を保つ難度が一気に跳ね上がる。塗料の粘度管理、乾燥ムラの抑制、巻取り時の張力制御など、要素の一つが崩れても歩留まりは下がる。幅の拡大は単なるスケールアップではなく、工程全体の再設計に等しい。量産化を見据えた装置条件の最適点を探る作業が続いているとみられる。
2025→2027→2030、工程表の輪郭
工程表は明快だ。まず2025年度までに製造を開始し、27年中には100MW規模の製造ライン稼働を目指す。そこから段階的に増強投資を重ね、30年度にGW級の製造ラインを構築する方針が示されている。市場に先行投入して信頼を積み上げ、同時に生産性と品質の両輪を磨く――そんな手順が読み取れる。海外展開も視野に入れた計画とされ、視座の高さもうかがえる。
量産の実現に近づくほど、工程のボトルネックは細部に潜む。塗工速度を上げれば乾燥条件が変わり、基材の熱影響も無視できなくなる。封止と耐候のバランス、封止材の選択、発電効率と寿命のトレードオフ――現場の最適化課題は尽きない。とはいえ、工程表が具体的に刻まれたことで、部材メーカーや施工会社の準備も進む。供給網全体の呼吸が、次第に量産へと合っていく気配がある。
壁面から街へ、広がる用途と後押し
フィルム型の軽さと柔軟性は、従来のシリコン型が難しかった壁面や耐荷重の小さい屋根にこそ威力を発揮する。建材一体の発想で設計すれば、発電とデザインが同じ面の上に同居する。都心の高層ビル、郊外の物流倉庫、公共施設の庇やひさし――日射が触れる面は潜在的な発電所に変わりうる。災害時の分散電源としての価値も高く、使われ方の想像は広がっている。
一方で、世界の開発競争は激しい。国内では、ペロブスカイトの大型化・耐久性向上に強みを持つ日本企業が先陣を切る構図だが、勝敗を分けるのは量産技術の確立とスピードである。政府はサプライチェーン構築支援を打ち出し、国内生産体制の整備と需要創出の両面を後押ししている。積水化学が工程表どおりに量産体制を形にできれば、街の風景と電力地図を塗り替える起点になると映る。
