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レジの内側に、無機質な腕が静かに動く光景が浮かぶ。セブン‐イレブン・ジャパンが人型AIロボットを全国店舗に導入する構想を進めていると、民放の報道で明らかになった。2027年初頭に店内で試験、2029年の実装を視野に置くという。省人化と新しい接客体験の両立を狙う動きで、店舗運営の常識を塗り替える一歩となるかが問われる。
レジの内側を担う「動くAI」が描く現場
静かな朝のカウンターに、ロボットが立つ。関係者の話として、セブンはテレイグジスタンスと提携し、レジカウンター内で多用途作業を行う人型AIロボットの開発を進めていると報じられた。揚げ物などのフード調理、陳列、たばこ販売の補助までを一台で担い、従業員はカウンターの外で接客の質に集中する運用を想定しているとみられる。
既に一部店舗では飲料補充や清掃など単一用途ロボットの導入が進むが、カウンター内の多用途機はゼロからの開発になる。鍵は「どこまで人の段取りを置き換えられるか」だ。揚げ時間や温度管理、在庫や年齢確認のオペレーションなど、現場に張り付く微細なルールが山のように存在する。そこに生成AIの推論が入る余地は大きい。
人手にしかできない接客は何か。短いやりとりや気配りは、いまも人に分がある。だからこそ、ロボットは裏方の「段取りの塊」を引き受ける。セブンは店舗・従業員の作業データを供出し、テレイグジスタンスが制御システムを作り込む流れだという。実環境データで鍛えたAIの動きが、接客の前段を滑らかに準備する姿が見えてくる。
省人化の柱は費用か体験か
ねらいは二つある。まず人手不足への正面対応だ。阿久津体制で国内コンビニ事業の改革を急ぐセブンは、労務費の圧縮が避けて通れない。多用途ロボットは、ピーク帯の待ち時間を抑え、夜間帯の最小人員でもオペを回す「柔軟性」をもたらすと映る。労務シフトの再設計で、同じ売場面積で時間当たりの提供価値を高める算段である。
もう一つが顧客体験の再設計である。たとえば、レジ外での接客補助や新商品の提案は、人の目と耳が強みを発揮する領域だ。ロボットが調理や補充を担い、人が「勧める」役に回る。偶然の出会いを増やせるか。ここで問われるのはAIの精度だけではない。店舗設計、認証手順、衛生や安全のルールをどう織り込むかという総合力だといえる。
一方で、現時点で確認されている範囲では、セブンやテレイグジスタンスからの正式発表は見当たらない。報道は「試験は2027年初頭」「全国導入は2029年を目標」と伝えたが、実装時期は部材調達や安全審査、規制対応の進捗で前後しうる。誰に有利なのか。開発側か、現場か、顧客か。この設問に同時解を出せるかが注目点となる。
人型ロボットの波、日本の底力はどこにある？
潮流は世界規模で加速している。米中では、生成AIを搭載した人型ロボットの商用試験が相次ぐ。現実世界の曖昧さに耐える「実環境データ」をどれだけ集め、学習させられるか。そこが競争の核心になっている。国内で小売の実データに深くアクセスできることは、テレイグジスタンスの開発加速に直結する強みといえるだろう。
政策の後押しも見逃せない。経済産業省は、AIとロボット技術の融合を掲げる一般社団法人AIロボット協会（AIRoA）の取り組みを支援対象として整理してきた。協会は2024年12月に設立され、2025年度から活動を本格化させ、産業横断の大規模データ収集や基盤モデルの開発を掲げる。企業群の力を束ねる枠組みが整いつつあるのは確かだ。
さらに官公庁は、万博関連の発信でも「AI×ロボットが人に寄り添う社会像」を繰り返し打ち出してきた。遠い未来の夢物語ではない。会話し、学び、現場で働くロボットが生活に溶け込む姿は、実装の視界に入っている。だからこそ、店舗という生活の最前線での安全・倫理・雇用の三点は、今から丁寧に設計し、検証し続ける必要がある。
結局のところ、偶然ではない。人手不足、コスト上昇、技術の成熟という三つの必然が重なった。セブンの一手は、その結節点にある。もしスケール導入が実現すれば、チェーンの標準作業は再定義され、他社の追随や独自路線の選択が市場全体のテーマになる。日本発の「動くAI」が、日常の風景に静かに入り込む時が近づいている。
