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メキシコのシェインバウム大統領が2025年11月4日の定例会見で、米国によるメキシコ国内での一方的な軍事行動は起こらないと明言した。NBC Newsの新たな対カルテル作戦報道に対する応答で、両国の協力は続ける一方、主権を越える介入は認めないという原則をあらためて示した。近ごろ米軍が東太平洋やカリブ海で疑われる密輸船への攻撃を重ねる中、発言は緊張の潮目を測るサインでもある。
記者会見で示した一線
質疑が始まると、大統領は短く切り返した。「そんなことは起きない」。国内で米軍が単独行動を取るとの観測を問われ、「そのような報告はないし、われわれは同意しない」と重ねた。言い切りは強調調ではなく、これまでの説明をなぞるように落ち着いていた。
会見では、米国との治安協力には枠組みがあると改めて述べた。情報共有や合同の取り組みは進めるが、主権と領域の尊重が前提であり、作戦の決定権はメキシコにあるという立て付けだ。協力はするが従属はしないという線引きが、言葉の端々ににじんだ。
大統領はこれまでも、トランプ政権が持ちかけた対カルテル作戦の選択肢に距離を置いてきた。対外的な強硬策より、国内の治安強化と司法の立て直しを優先する姿勢で一貫している。今回の応答も、その延長にある穏やかな拒否の表明だった。
米側の計画報道と海上攻撃の連鎖
発言のきっかけは、NBC Newsが伝えた米政府の計画報道だ。米軍や情報要員をメキシコに送り、麻薬工場や幹部を狙う任務を想定した詳細な準備が始まっているという。実施は差し迫っていないとされるが、国境の線の内側に米軍を踏み込ませる含意が注目を集めた。
一方で、米軍はここ数週間、東太平洋やカリブ海で疑われる密輸船への攻撃を次々と公表している。公表分だけで50人超が死亡したと報じられ、映像は示されるものの、標的と違法行為の立証が十分かを巡って議論が続く。作戦の法的根拠を問う声も広がっている。
海上での圧力強化が続く中、陸上作戦にまで議論が及べば、両国関係の重心はさらに揺れる。大統領の「起こらない」という言葉は、揺れを広げないための楔でもある。越境の火線を延ばさない、というメッセージが会見場に静かに置かれた。
協力の枠組みと越えてはならない線
それでも協力の扉は開いたままだ。捜査情報の共有、訓練や装備の支援、犯罪財産の追跡といった分野は継続し、犯罪組織の分断を狙う方針に変わりはない。ただし作戦の企画と実施はメキシコの指揮下で行うという原則が、これまで以上に明確になった。
今回の報道について大統領は、政府として公式な通知や合意は受けていないと強調した。仮に新たな提案があれば、外交ルートで精査し、公開の場で説明するという姿勢だ。拙速な断定を避けつつ、主権を守るための段取りだけは整えておく構えに見える。
会見の最後、報道陣の声がいったん途切れる。緊張を孕む話題の端に、国内治安の地道な積み上げを続けるという含みが残る。越えてはならない線を確かめ合いながら、協力の形を選び直す時間がまだ残されているように映った。
