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判決が言い渡されると、被告は証言台の前で小さくうなずいた。東京都国分寺市と埼玉県所沢市の民家に侵入し、住民を拘束して現金を奪ったとして強盗致傷と住居侵入に問われた佐藤聖峻被告(26)。東京地裁立川支部の裁判員裁判(市民が重大事件の審理と量刑判断に参加する制度)は、SNSの募集に応じた実行役が電話越しの指示を頼りに動いた経緯を掘り起こし、6日の判決で懲役10年を言い渡した。短い決断の連なりが、長い刑期へつながった。
電話の指示に従った侵入
起点は2024年9月30日未明の国分寺市だった。勝手口のガラスに粘着テープを貼り、ハンマーでたたいて割り、かぎを外して侵入。室内で女性を縛り、背中をたたくなどの暴行で骨折を負わせたうえ、現金を含む金品を奪った。被告は「中に人がいれば拘束しろ」との指示を受けていたと振り返る。通話越しの指示は細部に及び、物音や動線の確認まで次の行動を急かしたという。
翌10月1日未明には舞台が所沢市に移る。実行役は複数となり、事前に包丁やハンマーなどの道具を購入。80代の夫婦の手足を縛り、けがを負わせた。逃走の途上で身柄は確保され、一連の関与が明るみに出た。事件では通話やメッセージを介して逐一指示が届き、金品の在処を問い質す場面もあった。2件で奪った金品は合算で約900万円規模とされ、被害は生活の基盤を揺さぶった。
背景にあったのは、生活の行き詰まりと「闇バイト(SNSなどで違法行為の実行役を募る勧誘)」への接続だ。被告は副収入を求めてSNSを検索し、秘匿性の高い通話アプリで指示役と連絡を取り合うようになった。提示された役割は、いわゆる「たたき(強盗)」や「運び(荷物の運搬)」など複数。初めは軽い役回りを望みながら、指示に沿ううちに踏み込みが深まっていったという。断り切れなかったのか、断る気力を失っていたのか、法廷では言葉が続かなかった。
法廷が見た「従属」と「主体」
裁判員裁判の審理で浮かび上がったのは、指示役と実行役の関係に潜む二面性だった。被告は通話での指示に追随し、侵入から拘束、物色に至るまで受け身に見える。しかし、現場では扉の破壊や室内の探索など重要な工程を担い、被害拡大に直結する行動を重ねた。検察は「連日、引き返す機会があったのに踏み止まらなかった」と非難し、重い刑を求めた。弁護側は従属的立場や生活の逼迫を訴え、量刑上の考慮を求めた。
6日の判決で東京地裁立川支部は、被告の従属性を一定程度認めつつも、金品の発見など主体的な関わりを重視した。「SNSの募集に応じ、指示役と連絡を取りながら安易に関与した短絡性」を指摘し、懲役10年を言い渡した。量刑判断は、闇バイト構図の中にある個人の意思と役割の重さを見積もる作業でもあった。被告の反省や被害回復の状況、実行態様の危険性が秤にかけられ、結論は「重いが最大ではない」地点に置かれた。
今回の裁きは、闇バイトの「遠隔操作」が実行役の心理的ハードルを下げ、犯行を加速させる構造に光を当てたともいえる。匿名性の高い連絡手段と分業が結びつくと、個人は責任感覚を希薄にしやすい。だが、現場で手を下した重みは消えない。判決はそこを正面から捉え直し、従属の陰に隠れた主体性を掬い上げた。法廷の言葉は、同種事件の量刑相場だけでなく、社会の「距離が生む無責任」を見直す契機にもなりうる。
傍聴席が静まり、時計の針が進む音だけが残った。記録は、今も静かに積み重なっている。