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鑑識員が試料を取り分け、警官が記録を確認していた矢先だった。2025年11月15日未明、スリナガル郊外ノウガムの警察署で保管中の押収物が爆発し、署舎は一気に崩れた。少なくとも9人が死亡、負傷は30人前後にのぼる。押収物は同月10日のデリー車爆発の捜査で確保されたものとされ、地元当局はテロとの直接の関連は薄く、手順中の事故だった可能性に重心を置く。証拠を守るはずの場所で命が失われた事実が、捜査現場の脆さを静かに照らしている。
現場で何が起きたのか
爆発が起きたのは、鑑識と化学分析の担当者が押収した爆発物から試料を採取していた時間帯だった。建物は激しく損傷し、火災が連鎖的に発生した。犠牲者には警察官のほか、鑑識要員や行政職員が含まれる。遺体の一部が100〜200m先で見つかったとの報もあり、衝撃の強さを物語る。初動の段階で当局は、現場の状況から「偶発的な爆発」の見立てを示し、外部からの攻撃を示す確証は得ていないと説明した。
押収物は大量で、扱いに注意を要する不安定な物質が含まれていたという。現地報道では約360kg規模の爆発物が連鎖反応を起こした可能性が指摘される。爆発は署内の保管スペースから周辺の駐車車両にも及び、救助は延焼と小規模な二次爆発に阻まれた。負傷者には重体者も含まれ、病院での治療が続く。身元確認や残骸の収集が難航し、現場検証は長時間にわたり断続的に行われた。
ジャム・カシミール（インドの連邦直轄地）では、押収物の鑑定や処分はFSL（法科学鑑定機関）が中心になって進められる。今回はその「日常の工程」が悲劇へと転じた。手順の適否、数量に対する保管区画の設計、引火源の管理など、点検すべき論点は多い。現時点で当局はテロ組織の関与を退けつつも、保管と取り扱いの実務で何が欠けたのか、手順の再設計まで見据えた検証が求められる。
デリー車爆発との接点と、あぶり出された課題
今回の押収物は、2025年11月10日にデリー中心部で起きた車爆発の捜査線上で確保されたものとされる。デリーの事件はテロとして扱われ、各地で関連先の捜索と拘束が進む一方、死者数の公表は報道で幅がある。いずれにせよ、都市部での大規模爆発を受けて危険物が一挙に集まり、地方の警察署が過大なリスクを抱え込んだ構図は共通している。ノウガムの事故は、その負荷が現場安全を容易に超えることを示した。
捜査は今も進行中で、当局はノウガムの爆発についてテロとの直接的な連動を否定し、手順上の事故と説明している。重要なのは、押収から鑑定、最終処分までの「流れ」のどこで危険度が跳ね上がるかを見極め、肥大化した証拠物の管理を分散化・低危険化する設計に置き換えることだ。大量押収が誇るべき成果であるほど、保管・鑑定の受け皿も同じ速度で拡張されなければ、現場の安全は保てない。
FSLの作業は本来、証拠の信頼性を担保するための要でもある。だが不安定物質が混在する場合、連鎖反応を断つ物理的な分離、帯電や摩擦の管理、少量分割による段階処理など、工学的に積み上げるべき対策がある。今回の事故は、テロ摘発の成果と安全対策の「非対称」を映した。現場の判断が最前線を支える一方で、制度側がその背中を確実に受け止める装置を整えることが、次の一歩になる。
