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自動車メーカーのスズキの完全子会社で部品製造を担う「スニック」が、量産を終えた後も下請け企業に低い単価で部品製造を続けさせていたとして、公正取引委員会から下請法違反の勧告を受けた。2025年12月8日に公表された勧告は、発注量が大きく減った後も価格を据え置いた行為を「買いたたき」と認定した初のケースであり、部品の長期供給を前提とする自動車業界の慣行に一石を投じている。量産が止まった後も続く細い注文の陰で、現場の中小企業が抱えてきた採算悪化や交渉の難しさが改めて問われている。
量産終了後も続く細い注文 下請けにのしかかった採算割れ
公取委によれば、スニックは遅くとも2024年3月以降、主にシートやマフラーパイプなど318種類の自動車部品を、資本金1000万円以下の中小企業10社に委託していた。量産が終わり、補修用など少量の発注に移った後も、同社は量産期を前提にした低い単価を維持し、取引先と見直しの協議を行わないまま代金を決めていたとされる。ピーク時と比べて発注数が1％以下にまで落ち込んだ品目が全体の約3分の2を占めていたことから、少量生産への移行に伴うコスト増を下請け側が一方的に負担していた構図が浮かぶ。
自動車部品は、車種の販売が終わった後も一定期間は修理用として供給が続く。ロットが小さくなると、段取り替えの頻度増加や在庫管理の手間などで1個あたりのコストはむしろ上がりやすいが、単価が据え置かれれば利益は急速に削られる。公取委の調査では、「赤字になると分かっていても長年の取引関係を考えると断りづらい」「価格交渉のための資料作りややり取りに時間を割く余裕がない」といった下請け企業側の声も示されている。採算と関係維持のあいだで揺れながら、実質的な値下げを受け入れてきた実情だ。
さらに、スニックは自社が所有する金型や治具計880個を、長期間発注予定のない状態で14社の下請け工場に置き続け、代金を払わずに保管させていたことも認定された。工場の一角を埋める大型の金型は、それ自体が保管コストやスペースを奪う存在だ。本来であれば保管料や処分方法を発注側と協議すべきところを、「将来の発注に備えて置いておいてほしい」という空気のなかで、下請けが黙って受け入れてきたケースが少なくなかったとみられる。
「買いたたき」初認定が突きつける、自動車業界の課題
今回の勧告で公取委は、発注量が大幅に減ると1個あたりの製造費が上がることが分かっていたにもかかわらず、量産期の単価を一方的に適用した行為を、下請法が禁止する「著しく低い対価の設定」に当たると判断した。スニックには、2024年3月分までさかのぼって単価を引き上げ、通常支払われる水準との差額を支払うことが求められる。また、金型の無償保管についても、不当に利益を提供させた行為とされ、すでに支払った約842万円に加え、残る保管費相当額の支払いを行うよう命じられた。
調査の出発点は中小企業庁による実態把握であり、同庁が11月に公取委へ措置請求を行ったことから、今回の勧告につながった。大手メーカーの完全子会社であるスニックが対象となったことで、「量産終了後は自動的に単価を見直す必要はない」との暗黙の前提は、少なくとも法の運用上は通用しないことが明確になった形だ。公取委は自動車関連の取引には依然として下請法に反する慣行が残るとみており、発注量の変化や金型の扱いについて、同様のケースがないか監視を強める考えを示している。
自動車業界では、別の部品メーカーが下請け企業に金型の無償保管を強いていたとして、公取委から勧告を受けた事例も今年報じられた。コスト削減と安定供給を重視する発注側の論理が、弱い立場の取引先に負担を押しつける構図は共通している。今回の認定は、スズキグループだけでなく、補修部品の長期供給を担う他社にも、単価設定や金型管理の在り方を見直すよう迫るものだろう。採算と安全な供給を両立させるルールづくりを進めなければ、現場の疲弊は静かに蓄積し続けるとの懸念が残る。
