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小型艇が接近し、タンカーが針路を変えた。2025年11月14日、UAE沖を航行していたマーシャル諸島船籍の製品タンカー「タララ（Talara）」がイラン革命防衛隊に拿捕され、イラン領海へ移送された。積み荷は高硫黄ガスオイルで、シャルジャ発シンガポール行きだった。6月の衝突以降沈静化していた拿捕が再燃し、海上輸送の安全に改めて警戒が広がる。
拿捕の経緯
管理会社は同日朝、ホールファッカーン沖およそ20海里で通信を喪失したと明かした。英海軍の通報窓口UKMTO（英国海軍の海上通報窓口）は、現場で「国家活動の可能性」を示唆。警備会社は小型艇3隻の接近を報告し、米海軍の無人偵察機MQ-4Cが上空から動静を監視した。
翌15日、IRGC（イラン革命防衛隊）は司法当局の命令に基づく押収だと公表した。午前の時点で監視を開始し、船体と貨物をイラン側の停泊地へ誘導したとする。声明は「国益と資源の保護」を理由に挙げ、違反は積荷の「無許可」だと主張した。詳細は調査中とされた。
米当局者はここ数か月、同国による拿捕作戦は見られなかったため「意外性がある」と語る。6月の激しい衝突から時間が経ち、航路では警戒が常態化しつつも静けさが戻りかけていた。再び緊張が表面化し、地域の海運実務に微妙な波紋が広がる。
船と貨物の素性
タララはマーシャル諸島船籍の石油製品タンカーで、運航管理のコロンビア・シップマネジメントが乗組員との連絡断絶を確認した。航路はUAEのシャルジャからシンガポール。積み荷は高硫黄ガスオイル（船舶用燃料の一種）で、数量は約3万tと伝えられる。
IRGCは「貨物押収」の司法命令を根拠に挙げ、船体と書類の精査を継続するとした。一方、管理会社は関係当局や保安機関と連携し、乗組員の安全確保を最優先に対応している。責任の所在や積荷の権利関係は複雑で、法的論点が今後浮上する可能性がある。
現場はホルムズ海峡の出入り口に近い。世界の原油や石油製品が集中する要衝で、船舶保険や用船契約の条件は情勢に敏感だ。今回の拿捕は一件でも、航路の混雑や寄港計画の見直しを促し、運賃や保険料の波立ちに連鎖しかねない。
地域情勢への波紋
6月の衝突後、イランの海上活動は抑制的だとの見方があった。今回の拿捕は、その流れに小さな折れ目を入れた。現時点で確認できるのは、司法命令と「無許可貨物」を理由とする当局説明、そして第三者の監視情報だ。いずれも事実関係の積み上げを待つ段階にある。
海上保安の現場は、突発事象への備えを続ける。船会社は航路選定や避航計画を細かく見直し、UKMTOへの通報体制を保つ。保険・金融はリスク評価を更新し、過度な反応を避けつつも余裕帯を持つ。小さな判断の積み重ねが、海峡の通行を支えている。
緊張は波のように寄せては返す。船員の手つきが日常の速さを取り戻すまで、現場は静かに可動域を確かめ続ける。揺れる海域に、一定の呼吸が刻まれている。
