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検査ラインにカメラが動き、端末にデータが流れ込む。東武鉄道と日立製作所が2025年11月11日、車両メンテナンスのDX（デジタルトランスフォーメーション）を進める協創に合意した。日立のデジタルアセットマネジメント基盤「HMAX」を本格活用する国内初の事例とし、検査の自動化や作業最適化で持続可能な運行をめざす。
現場から始める3つの改革
両社がまず手を入れるのは検査の刷新だ。車上と地上を結ぶ通信で運転速度や消費電力、乗車率などを把握する車両オンラインモニタリングで状態を見える化し、保守のタイミングを前倒しにする。加えて、AIで屋根や側面、床下の外観を自動判定する仕組みを組み合わせ、点検の時間を短くする。
人の作業は、ポータル端末とICタグ（小型無線チップ）で入退場や作業時間を把握するチェックイン・チェックアウトでムリ・ムダを削る。さらに、車両の構造や機器、故障履歴を共有する「車両メタバース」を使い、現場同士の連携を早める。知識を引き継ぎやすくし、経験の差で生じるバラつきを抑える狙いだ。
データを束ねるHMAXとは
HMAXは日立が展開するデジタルアセットマネジメント（設備資産の管理）基盤で、列車や信号、設備のデータを横断して扱えるのが特徴だ。Lumadaの知見を組み合わせ、故障予兆や運用最適化の分析を一つの背骨に集約する。今回の協創では、この基盤を東武の車両領域に適用し、現場で使える形に磨き込む。
日立は鉄道分野でHMAXの導入実績を積み重ねてきたが、日本の鉄道事業者による本格活用は今回が節目となる。データ収集から可視化、意思決定までをつなげることで、省エネ運行とメンテナンス効率の両立をねらう。システム単体ではなく、人の働き方とセットで変える設計が要となる。
人材難と安全を両立させるために
少子高齢化で現場の担い手が減るなか、同じ安全水準を保ち続けるにはやり方を変える必要がある。東武はデジタルを使って定型作業の負担を軽くし、社員が創造的な仕事に時間を振り向けられる環境づくりを進める。スキルとエンゲージメントを高め、定着と採用の好循環を狙う。
今後は、台車に搭載した振動センサーで異常を早期に捉え、運行と保守の情報を集約表示する統合ダッシュボードの開発も進めるという。点の改善を面に広げられれば、障害対応の初動はさらに速くなる。欧州の一部で進むデータ駆動の保守と呼応しつつ、日本の現場流に落とし込む歩みである。
