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都内の会場に集まった視線の先に、鮮やかな朱鷺の尾翼が浮かんだ。新潟空港を拠点とするトキエアが、実業家の堀江貴文氏を新たな取締役に迎えると打ち出し、併せて新体制の事業戦略を示した。地域発の小さな翼に、攻めの経営と新産業の芽を重ねた一日である。航空とものづくり、そして地域経済の接点が、いま静かに動き出していると映る。
新潟の翼が描く「攻め」の布陣
2025年9月25日、地元メディアの報道で堀江氏の取締役起用の方針が明らかになり、10月6日に都内で正式発表の場を設ける見通しが伝えられた。取締役会で提案がなされ、今後の株主総会で承認を得る手順が示された経緯である。経営の意思決定に民間の機動力を取り込むことで、地方航空の停滞感を突破する狙いが浮かぶ。
6月には代表取締役に和田直希氏を迎えており、タレント性のある経営陣が並ぶ構図になった。狙いは話題づくりだけではない。資本や人材、提携を呼び込む「磁場」を新潟に作ることだとみられる。誰に有利なのか。路線と収益の両輪を回すうえで、調達と販売の網を広げられる陣形に意味がある。
一方で、役員起用は株主総会の決議を経る必要がある。発表と実務の間にはガバナンス上の手続きが横たわる。地方発の新興航空会社にとって、注目の大きさと組織の成熟度のギャップをどう埋めるか。期待と統治を両立させる現実的な舵取りが問われているといえる。
戦略の中核に「柔らかい収益」と「つくる力」
2025年10月6日の発表会では、新体制の事業戦略が示されたとされる。現時点で確認されている範囲では、1区間100万円の一般チャーター販売キャンペーン、予約や決済を束ねる「スーパーアプリ」の構想、そしてLSA（軽量スポーツ航空機）製造への参入が柱に据えられたという。運賃一本足に頼らない柔らかい収益源の育成が狙いだ。
チャーターは需要の山谷を埋め、機材稼働を平準化する手筋である。地域の企業視察、教育旅行、スポーツ遠征など「まとめ買い」の場で効く。一定の上限価格を示すことで、意思決定を早める効果も見込める。小型機材の強みを生かし、短距離・短時間の移動を“可視化”することで、路線の価値を再定義する試みだと映る。
アプリの統合は、搭乗前後の移動や宿泊、地場体験と結びつける余地が大きい。新潟に降り立った瞬間から帰路まで、決済・クーポン・交通の動線を一気通貫にすれば客単価は上がる。誰に有利か。航空会社だけでなく、空港、自治体、商店街にまで波及する利益が想定される。データを手にする者が、顧客接点を設計できるからだ。
LSA製造はさらに野心的だ。裾野が細る日本の航空機産業で、燕三条圏の加工・素材技術と結び、設計から試作、試験と段階を踏む。堀江氏は裾野づくりの重要性を繰り返し語ってきたとされ、いきなり大型機ではなく、訓練・レジャー用途から始める現実解を示唆した格好である。航空と地場ものづくりの接木が見える。
路線、機材、規制—勝ち筋とリスクの見取り図
トキエアはターボプロップのATR機を軸に、新潟と札幌（丘珠）や中部、神戸などを結んできた。需要の季節変動が大きい市場で、座席数の小回りと短距離適性は理にかなう。将来的な新潟〜佐渡の空路構想も語られてきたが、滑走路や機材要件、天候の厳しさといった現実のハードルは高い。段階的な投入と冗長性の設計が鍵になる。
規制面では、安全と運航の許認可が最優先だ。新路線や運賃、付帯事業の拡張は制度と並走する必要がある。LSA製造は航空法上の認証や耐空性の証明、量産の品質保証に至るまで時間がかかる領域である。偶然の追い風に頼らず、時間軸を折り込んだ資金繰りと、試作・改良の学習サイクルを支えられるかが問われる。
それでも、地方航空の価値は縮小均衡だけでは測れない。新潟の日本海側ゲートウェイとしての位置づけ、佐渡や雪国観光、県外企業の投資誘致など、空と地上の交通を束ねた「移動の設計」は伸びしろが大きい。新体制の賭けは、路線収益の最大化だけでなく、地域経済の回路を増やすことにあるとみられる。必然の挑戦かもしれない。
