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警視庁捜査1課が2025年11月11日、同居する幼い娘に十分な食事を与えなかったとして、都内の30代の母親と20代の交際相手の男を保護責任者遺棄の疑いで再逮捕する方針を固めた。女児は1日1食程度に制限され低栄養となり、体にはあざややけどの痕が確認されている。通報が子どもを守る最後の網であることが改めて浮かぶ。
通報がつないだ保護までの道のり
捜査関係者によると、少なくとも7月から8月ごろにかけて、女児の食事は1日1食程度に制限されていた。7月中旬には自力歩行が難しいほどの低栄養を認識しながら、受診は見送られたという。8月上旬、女児が知人宅に預けられた際、訪れた学童関係者が異変に気づき、児童相談所に連絡した。
連絡を受けた警視庁は9月に自宅を家宅捜索し、室内の見守りカメラやスマートフォンから、子どもへの暴行を疑わせる複数の画像や記録を確認した。2人は同居する他の子どもへの暴行容疑で10月に逮捕され、11日には女児への保護責任者遺棄容疑での再逮捕方針が固まった。
女児は顔や体に多数のあざややけどの痕が見つかり、同年齢の平均より体重が約10kg下回る状態だったとされる。現在は命に別条はなく、回復に向かっている。時間を要する支援ではあるが、保護に至った経緯は、現場の小さな気づきが決定的な役割を果たすことを示した。
事件が映す「日常」の危うさ
食事を細らせる形の虐待は、外から見えにくい。叱責や打撲の痕と違い、毎日の不足が静かに蓄積し、気づいた時には歩行や摂食の機能まで奪う。今回は見守りカメラの映像などが行為の一端を可視化したが、家の中で起きる行為は閉じた空間に守られやすい。可視化の糸口をどう広げるかが問われる。
保護責任者遺棄（監護する立場にある者が、生命や健康を害するおそれのある状態に放置する罪）は、直接の暴力がなくても成立し得る。1日1食に制限する行為は、子の成長・発達を阻害する重大な危険と評価される。結果の軽重に関わらず、監護の放棄や不作為が法の射程に入る点が重い。
9月下旬には、和歌山で2歳女児が死亡し、両親が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された事案も報じられた。背景や経緯は異なるが、家庭という日常が安全の場でなくなるとき、被害は一気に深刻化する。報道が続く今、同様の連鎖を断つ仕組みの整備と運用が求められる。
支援と通報の要（189）
今回の保護につながったのは、偶然の訪問で拾われた小さな異変だった。違和感を覚えたときに頼れる窓口として、児相虐待対応ダイヤル「189（イチハヤク）」がある。番号を押すと最寄りの児童相談所につながり、匿名でも相談できる。迷った段階での通報が、次の被害の前で止める力になる。
通報では、見かけた状況や日時、場所、子どもの様子など、覚えている範囲で具体的に伝えるとよい。緊急時は110番が優先だが、継続的な懸念は189で共有できる。地域の学校や医療、福祉と情報が早く結び直されれば、支援は速く届く。社会の目が細やかであるほど、子どもの安全網は強くなる。
閉じた戸の向こうで重なる小さな異変を拾う視線が、静かに安全網を形づくっている。
