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秋晴れの東京、静かな会議室で担当者が紙を交わす姿があった。2025年10月24日、東京ガスが米グレンファーン・グループのアラスカ州LNG計画について、非拘束の関心表明書を締結したと明らかにした。長らく止まり木のように見えた巨大計画に、日本の有力需要家が改めて近づく一歩が映る。
凍てつく北のガスに、日本の需要家が寄せる視線
関心表明書に法的拘束力はない。だが、開発状況の情報収集や経済性の吟味を目的に、商談の地ならしを進める狙いがにじむ。東京ガスの動きは、買い手が慎重に入り口を確かめる作法に沿うものであり、価格式や物流、契約期間の実像を見極める段階に入ったと映る。
この計画は総事業費約440億ドル規模とされ、米州北端のガスを南岸ニキスキの液化基地へ運び、アジアへ送り出す構想だ。2025年3月28日には、州公社アラスカ・ガスライン開発公社とグレンファーンが最終的な開発契約を結び、同社がリードデベロッパーとなった経緯がある。停滞感が漂った計画は、舵取り役の明確化で再始動の色合いを強めた。
計画の骨格は、全長約807マイルの幹線パイプラインと、年間最大2,000万トンの液化能力を持つニキスキのLNG基地、北極圏側でのCO2回収設備だ。陸揚げから液化、出荷までの一連の導線を一体で設計することで、供給安定性とコストの両立をねらう構図が浮かぶ。
経済性のハードルと近道という地理、二つの現実
アラスカからアジアへは、湾岸発のLNGがパナマ運河や喜望峰を回るのに比べ航程が短い。距離が短ければ輸送コストと船腹リスクは抑えやすい。こうした地理の優位は、価格競争力に効く可能性がある一方、開発コストの巨額さや金融環境の変化が相殺する懸念も残る。投資判断は総合力の勝負になる。
2025年6月4日には、グレンファーン側が戦略パートナー選定の第1段階で50社超から総額1,150億ドル超の関心表明を得たと伝えられた。年内にパイプライン部分の最終投資判断をめざす工程感も示され、机上から実装へと局面が移る期待が広がっている。もっとも、署名の多さは出発点でしかない。
環境面の論点も外せない。計画は連邦の許認可を得て進むが、温室効果ガス排出や自然環境への影響をめぐる異論は根強く、訴訟や世論の波が先行きを左右しかねない。CO2回収設備の導入など低炭素化の工夫は施されるものの、社会的受容性の確保はなお途上とみられる。
日本勢の歩幅、商談の地ならしから次の扉へ
日本の需要家は長期契約の妙味と硬直性のはざまで身動きを探ってきた。現時点で確認されている範囲では、東京ガスの関心表明は非拘束の枠にとどまるが、開発側の工程が進むにつれ、引き取り条件や価格指標、柔軟性条項など実務的な詰めに踏み込む余地が広がる。慎重さと機動性の両立が鍵になる。
国内最大手のJERAなど日本勢が関心を示しているとの報もあり、買い手側の裾野はすでに広がっている。供給源の多角化、運賃と滞船リスクの抑制、脱ロシア依存という複数の要請が背中を押す。ただし、為替や金利、船価の変動は収支を一変させる要素であり、拙速は禁物だ。
次の焦点は、年内に見込まれる幹線パイプラインの投資判断と、液化基地を含む全体計画の資本・運営体制の見極めである。東京ガスの今回の一歩は、交渉の入り口を開く役割を担う。現地の工事設計、環境審査、金融枠組みが具体像を得るにつれ、日本の買い手がどこまで踏み込むか、その歩幅が試される局面が近づいている。
