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ホワイトハウスの東棟で、建設機械の唸りが静かな朝を揺らした。2025年10月21日、トランプ大統領が推し進める「大統領ボールルーム」建設に向けた解体作業が始動したのである。計画は東棟の全面近代化も含む大規模改修で、歴史的施設の使い方を変える転換点と映る。
東棟で重機が動き始めた
来客用玄関や劇場、歴代の大統領夫人のオフィスが置かれてきた東棟の外装に、重機のアームが食い込んだ。観光客が足を止め、職員が足早に行き交う中、外側の構造物が剥がれ落ちていく光景は、日常の延長にない緊張を帯びていたとみられる。現場の振動が敷地の空気をわずかに変えていた。
同日、トランプ大統領はホワイトハウスで、このプロジェクトが着工段階に入ったと発表した。報道映像が流れ始めた後のタイミングでの表明で、工事の実態と説明が重なる形になった。大統領は自らの発信でも、東棟を本体から独立した形で近代化し、完成時には美観が高まると強調したとされる。
始まったのは単なる内装の更新ではない。外壁や付帯構造の撤去が先行し、動線や安全対策を含む配置転換が続く見通しだ。見学ルートや行事運営にも一時的な影響が出る可能性があるが、最終的には大型行事の受け入れ力を高める狙いが前面に出ているといえる。
計画の中身と狙い
この計画は、ホワイトハウスが2025年7月31日に正式に示したものだ。総計約9万平方フィートの増築を掲げ、着席で約650人を収容できる新たなボールルームを中核に据える。従来のイーストルームでは200人規模が限界で、国家元首級の儀典や大型会合で増設テントに頼る現状を改める意図がにじむ。
設計はワシントン拠点のマククリアリー・アーキテクツが担い、施工はクラーク・コンストラクション、エンジニアリングはAECOMという布陣である。トランプ大統領は「歴史的意匠の継承」と「機能の更新」の両立を掲げ、関係機関と調整を重ねてきたとする。着工は9月開始、任期中の完成を目標に据える段取りだ。
新設ボールルームはホワイトハウス本体から大きく離し、現在の東棟の位置に配置する構想である。東棟は1902年に起源を持ち、1942年に二層化されるなど改装を重ねたが、今回の再編で動線・安全・防災の観点も含めて刷新する。儀典の現場感と歴史の保存、その接点を探る工事になるとみられる。
揺れる金額と資金の出どころ
費用の見積もりは揺れがある。7月の公式発表は「約2億ドル規模」を掲げ、大統領と「愛国的な寄付者」が拠出するとした。一方、現時点で確認されている範囲では、解体開始を伝えた報道が「2億5千万ドル超」との見立てを示す。設計変更や安全対策の上積みで増嵩する局面は珍しくない。
資金は公費ではなく私費と寄付で賄う方針だ。公邸という性格上、文化財としての保存基準や透明性への目配りが不可欠で、資金の流れや寄付の情報開示、公共性との整合が今後の焦点となる。東棟の近代化に伴う設備投資や警備強化の費用配分も、説明責任が問われる論点として残る。
数字の違いは、計画段階と実施工段階の前提差にも起因する。収容規模や付帯空間の仕様が詰まるほど、合計額は動くのが通例である。とはいえ、ホワイトハウスの行事運営がテント頼みから恒久施設へと移る意義は小さくない。儀式の格式と実務の効率、その両立をどう形にするかが問われている。
