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トランプ米大統領が、米国外で製作された映画への100％関税構想を再び前面に押し出し、ハリウッドと世界の映像産業に波紋が広がっている。初出は2025年5月5日（JST）の投稿で、狙いは制作の国内回帰だが、実施方法は依然不透明だ。市場も神経質に反応し、制作と配信の両輪に不確実性が積み上がっている。
狙いは“メイド・イン・アメリカ”の回帰か
大統領はSNSで、海外が手厚い優遇策で制作を誘致していると主張し、映画産業は「とても急速に死につつある」と危機感をあらわにした。海外制作は「国家安全保障上の脅威」だとも述べ、「映画を再びメイド・イン・アメリカにしたい」と結んだ。投稿は米国内の雇用や制作拠点の回復を訴える文脈に置かれ、支持者にとってはわかりやすい旗印になったと言える。
他方で、構想の輪郭はまだ霞んだままだ。大統領は商務省と通商代表部に手続きを開始するよう指示したと語るが、どこまでを「外国製作」とみなすかは明確ではない。米資本でも撮影やVFXが国外なら対象なのか、共同製作はどう扱うのか、劇場公開と配信のみの作品で線引きはあるのか。現時点で確認されている範囲では、こうした基本設計が示されていない。
背景には、映画制作の国際分業が常態化した現実がある。ハリウッドは英やカナダ、豪などのロケ誘致と税優遇を活用し、脚本から仕上げまで工程を分散してきた。巨大スタジオだけでなく配信プラットフォームも世界中で撮影網を持ち、各地域のスタッフや技術を編み合わせて作品を仕上げる。関税という直線的な道具で、この複雑な生産地図を一気に塗り替えるのは容易ではない。
市場の反応とハリウッドの計算
発表を受けて市場は素早く反応した。ネットフリックスの株価は一時4％安、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーも一時5％安と売りが先行した。投資家が織り込んだのは政策そのものの成否ではなく、制作費や調達構造に上振れリスクが生じるという見通しだ。関税の実装が遅れても、検討局面の長期化だけで収益予想のレンジは広がる。
プロデューサーの実務に落とすと、懸念はより生々しい。米スタジオはロケ税制と人件費、VFXの可用性を天秤にかけて工程を配置する。適用範囲が定まらなければ、見積もりの前提が揺れ、保険や為替ヘッジの設計も難しくなる。撮影を国内に戻す判断をしても、技術やステージの空き状況が追いつかず、結果的に延期やスケールダウンを余儀なくされる可能性が出てくる。
業界の声も割れている。国内回帰で撮影機会が増えるとの期待の一方、欧州や英の組合はフリーランス雇用への打撃を警戒する。配給や興行の現場では、作品の出入りに関税が絡むと価格転嫁や公開計画の遅延が起きやすいとの見立てが強い。国際共同製作の比重が高い現在、単独の市場で完結しないサプライチェーンに、政策の揺れがそのまま不確実性として乗ってくる。
実現への壁と国際的な波紋
最大のハードルは実務だ。関税は原則として「モノ」の輸入に課す仕組みで、映画の実体はデータで流通する。どの工程のどの地点で課税するのか、税関手続きはどう整えるのか、徴税と検証のコストは誰が負担するのか。そもそも「どこで作られた作品か」を判別するための基準を定義しなければ、制度は動き出さない。制度設計の遅れは、制作側の意思決定をさらに鈍らせる。
波紋は国境を越える。海外は報復措置をちらつかせ、米作品の扱いを見直す可能性がある。実際に2025年4月、中国の映画当局は米映画の輸入枠を減らすと表明した。報復の応酬が強まれば、ハリウッドの回収モデルである海外興行が細り、制作費の大型化に耐える企画が減る。関税が国内雇用を押し上げるどころか、制作規模の縮小を招く逆回転も十分あり得る。
法的根拠も霧の中だ。政権は既存の権限を活用して手続きを進める構えだが、対象や徴収主体、適用開始の工程表は示されていない。米国内の業界団体や海外政府との協議が進むほど、例外規定や暫定措置が増え、制度は多層化していくはずだ。映画産業は長い回路で動く。制作発表から公開までの時間軸を考えれば、政策の揺れは来季や再来季のラインアップに静かに影を落とす。
いま重要なのは、感情の振れ幅に巻き込まれず、事実と実務で判断することだ。制作側は、撮影地やポスプロの組み合わせを複数案で備え、税務と通関の助言を早めに仰ぐ必要がある。配給と興行は、公開時期の柔軟性と価格戦略の余白を確保したい。政治の季節は過ぎ去るが、フィルムメイキングは積み上げの営みだ。政策の最終形が見えるまで、余裕を織り込んだ設計図が要る。
