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秋の冷たい風が吹くキーウに、大きな一報が走った。2025年10月22日、ウクライナ大統領とスウェーデン首相が、最新鋭戦闘機グリペンEの大規模供与を視野に入れた了解覚書に署名したと伝えられた。条件や時期は未定だが、実現すれば欧州の空の力学を揺さぶる計画である。戦局の長期化が現実味を帯びるなか、空からの抑止をどう立て直すかという問いが突きつけられている。
署名の一報と「最大150機」という数字
複数の報道は、供与規模が100〜150機に及ぶ可能性を示したと伝えている。しかし現時点で確認されている範囲では、スウェーデン政府やウクライナ大統領府の詳細な公表資料は見当たらない。了解覚書は方向性を示す文書であり、拘束力は限定的と映る。慎重な見立てが必要である。
文書の中身は、機数や支払い条件、移転時期、運用支援の枠組みなどで合意を急がない姿勢をにじませる。供与か売却かの性格付け、第三国の許可や輸出管理の整合、訓練期間の確保など、交渉の論点は多岐にわたるとみられる。価格や維持整備の費用分担も、政治判断を左右する重い論点である。
それでも両首脳は、この合意が欧州全体の抑止力を底上げする「ゲームチェンジャー」になり得ると強調したと報じられた。戦況の膠着とインフラへの攻撃が続くなか、航空戦力の更新を前倒しする狙いが浮かぶ。一方で、即効薬を求める世論と、現実的な導入プロセスの間にある溝も意識されている。
北欧の決断がもたらす波紋
スウェーデンは2024年にNATOへ加わり、北欧の安全保障地図は塗り替えられた。バルト海を囲む同盟ネットワークが一体化し、空と海の即応体制は厚みを増した。こうした地理の優位が、長期戦をにらむ支援の持続性を支えていると映る。今回の一報は、その延長線上に位置づけられる。
NATOの枠内でも、北欧空軍の相互運用化は加速している。2024年3月11日と13日には、デンマークのF-35とスウェーデンのグリペンが共同訓練を実施し、機種の違いを越えた連携の成熟を示した。分散運用を含む戦術の共有は、域内防空の底力につながる。互換性の担保が、配備後の即応力を左右するといえる。
もしウクライナにグリペンEが配備されれば、北欧と東欧の防空網はデータ連接で結節強化が進む可能性がある。一方で、供給国の自国防衛とのバランス、予備機や部品プールの確保など、同盟管理上の配慮も広がっている。地域の抑止と各国の足元の安全保障をどう両立させるかが焦点である。
グリペンEという選択の現実味
グリペンは短い滑走路や道路を活用して散在運用できる設計思想で知られ、整備性や運用コストの低さが評価されてきた。滑走路が狙われやすいウクライナの環境では、基地分散と即応を両立させやすい点が強みとして語られている。機体の特性が地形と戦術に寄り添う構図が浮かぶ。
E型はセンサー群と電子戦能力の近代化が進んだ最新仕様であり、対空ミサイル網や無人機群と連携した防空・対地の複合運用に向くと専門家はみる。だが最新機であるがゆえに、養成、兵站、弾薬調達、ソフト更新の負担は小さくない。導入初期の稼働率をどう確保するかが試金石となる。
加えて、既に進むF-16移転との整合も避けて通れない。訓練基盤や武器体系が二重化すれば柔軟性は増すが、整備線や補給は複雑化する。結果として、段階的に部隊を立ち上げ、作戦計画と防空網の再設計を並走させる現実的な道筋が求められる。期待と現実の折り合い方が問われている。
