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ドーハの会見場で、米政権のアフリカ・中東担当上級顧問マサド・ボウロス氏が声を強めた。2025年11月15日、氏はスーダン内戦を「世界最大の人道危機」と評し、3か月の人道的停戦に向けた外交の前進を期待すると語った。戦局の節目を映す発言であり、支援と停戦をどう結び直すかが問われている。
ドーハで語った危機感
ボウロス氏は、ここ数週間のエル・ファシェルでの惨状に触れ、「映像と報告を見た。直ちに止めねばならない」と述べた。米国は交戦当事者に停戦合意の最終化を促しつつ、仲介国とともに「3か月の人道的停戦」を提案している。9月には米国、サウジアラビア、UAE、エジプトが、人道停戦から恒久停戦、民政移行へと進む枠組みを共同で打ち出した。
一方で、スーダン政府側は停戦案の内部協議の結果として継戦の意思を示し、RSFは提案への同意を公言しながらも攻勢を続ける。戦闘と交渉が併走する構図が長期化する中、人道回廊の確保や調整メカニズムの実装は遅れる。停戦が合意されても、現場で動く輸送、検問、通信の細部が整わなければ、命を救う速度は上がらない。
ボウロス氏は「数週間で突破口を」と語ったが、現地は飢餓と疾病の危機が重なる複合災害にある。人道支援の資金不足は深刻で、主要都市の医療機関も度重なる攻撃で機能を失いつつある。停戦の政治交渉と同時に、現場で働く人員と物資の保護に実効策を伴わせる必要がある。
エル・ファシェルの陥落が映す現実
ダルフールの要衝エル・ファシェルは、2025年10月26日にRSFが軍の第6歩兵師団司令部を制圧し、約18か月に及ぶ包囲に区切りがついた。周辺では大量殺害や性暴力の報告が相次ぎ、市民は身を寄せる場所を失った。陥落直後の数日で千人規模の犠牲が出たとの推計もあり、街の医療機関にも深刻な被害が及んだと伝えられる。
この転機は、戦況の均衡が崩れたことだけを意味しない。退路を断たれた住民が移動を重ね、支援網が届かない空白地帯が広がるという、より厳しい段階の始まりでもある。国連関連機関は、内戦開始以降の強制移動が約1250万人、死者が5万人超に達したと整理する。数字の背後には、家や市場、学校といった日常の基盤の喪失がある。
エル・ファシェルの事例は、都市の落日が周辺州の不安定化を速めることも示した。補給路の争奪は続き、移動の途中で命を落とす人も出る。包囲と報復の連鎖を断つには、検問での恣意的な徴発や拘束を抑止し、住民の退避と帰還の双方に安全を担保する仕組みを、暫定管理の合意に織り込むことが欠かせない。
停戦への道筋と残された課題
停戦の実効性は、署名の瞬間ではなく、その翌日にどれだけのトラックが安全に通れるかで測られる。提案されている3か月の人道的停戦は、飢餓と疾病の連鎖を断つ時間をつくる試みだ。だが、支配地が入り組む現状では、地方の現場指揮系統まで含めた拘束力と監視の仕組みが不可欠で、違反時の是正手順も事前に明確でなければならない。
民間主導の移行を見据えるなら、当事者の政治的利害を越えて、人道アクセスを最優先に据える合意の積み上げが要る。物流、金融、通信のボトルネックを一点ずつ外し、地域社会の自律的な支援活動と国際援助をつなぎ直す作業は地味だが、回復の土台になる。戦況図の矢印より先に、人が帰れる道筋を描けるかが試されている。
同時に、停戦は終点ではない。学校の再開、保健と水のインフラ復旧、土地や住居の権利紛争への暫定ルールづくりなど、社会の再起動に要るタスクは山積している。短期的な人道措置と中期の復旧をつなぐ資金と制度の設計に、国際社会の継続的な関与が求められる。
