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裁判所の短い命令が配布されると、傍聴席のざわめきが一段高くなった。米連邦最高裁が、投開票日後に到着した郵便投票（投票用紙を郵送で提出する方式）の有効性を巡る訴訟を審理すると決めたのは2025年11月11日。来年春の口頭弁論を経て夏までに結論が示される見込みで、2026年11月の中間選挙の準備や集計実務に直結する判断となる。
争点はどこにあるか
審理の対象はミシシッピ州法だ。投開票日までの消印（投函日を示す郵便の印）があれば、選挙後5営業日以内に届いた不在者投票も数えられるとしてきた。これに対し共和党全国委員会などは、連邦法が連邦選挙の期日を1日に定めている以上、到着期限も当日でなければならないと主張している。
州側は反論する。投票の「行為」は投開票日までに投函された時点で完結しており、到着後に行われるのは配達と事務処理にすぎないという説明だ。選挙管理実務の観点からは、郵便の遅延や自然災害、僻地からの投函、在外軍人・家族の投票など、期日通りに投函しても配達が遅れる合理的事情があると訴えている。
下級審では結論が割れた。地方裁判所は州法を支持したが、2024年10月の連邦第5巡回区控訴裁判所は「到着期限は当日」と判断し、翌年3月に再審理の申立ても退けられた。今回、最高裁が上告を受理したことで、全米の選挙事務に及ぶ基準が初めて最高裁の判断で整理される見通しとなった。
判断が及ぼす影響
影響はミシシッピ州にとどまらない。消印があれば到着が遅れても有効とする運用は複数の州で採られており、最高裁が「当日到着」を義務づければ、州法や実務の見直しが一斉に迫られる。とりわけ海外・遠隔地からの不在者投票や、配達事情に左右されやすい地域の有権者に波及しやすい。
政治的な含意も大きい。郵便投票の利用は有権者の属性で差が出やすく、政党支持層の構成にも重なるため、到着期限の線引きは票の行方に影響しうる。集計の透明性や確定の迅速さを重視する声と、適法に投函された票の救済を重んじる声が正面からぶつかり、制度設計の優先順位が問われている。
審理のスケジュールは、選挙実務の現場にとっても重要だ。最高裁は春ごろに口頭弁論を開き、2026年6月下旬から7月上旬までに最終判断を示す公算が大きい。これは各州が中間選挙の前に手順を確定し、投票用紙の設計や周知、郵便当局との連携を整えるための時間軸に直結する。
これまでの経緯
発端は、ミシシッピ州務長官マイケル・ワトソン氏を被告とする訴えだった。2024年10月に控訴審が州法を違法と判断し、2025年3月に再審理が否定された。その後、同年6月に最高裁へ上告申立てが提出され、秋の会議配布を経て、11月に受理決定が公表された。事件名は「Michael Watson v. Republican National Committee」だ。
受理決定の公表と前後して、最高裁の記録（ドケット）には上告の経緯や各当事者・友好団体の意見書が順次登録されている。受理自体は結論を意味しないが、全国的な実務に影響する法解釈を統一する必要があると最高裁が判断したことは示している。判断の射程と書きぶりが、各州の制度設計を左右する。
選挙日程は刻々と近づく。配達の遅れも、集計の速度も、1票の重みを軽くはしない。静かな手続の積み重ねの先に、基準の形が見えてくるだろう。
