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ビリニュスの夜は、不意に静まり返った。空港運営会社が「空港に向かう可能性のある一連の気球」の情報を受け、空域の一時閉鎖を決めたためである。到着・出発の双方が止まり、およそ30便、約6000人に影響が及んだ。運航は2025年10月5日 10:50に再開されたが、乗客や航空会社の動線は乱れ、余波はしばらく残るとみられる。
静まり返った滑走路が動き出す
閉鎖の決定は4日遅くに下りた。出発ロビーには行き先表示の「遅延」や「欠航」が静かに並び、夜明け前の空港はため息と小声のやり取りだけが響いていた。5日になって各社が機材と乗務員のやり繰りに踏み切り、2025年10月5日 10:50、滑走路はようやく再び動き出した。だが回復直後のダイヤは綱渡りで、乗り継ぎの再手配やクルーの交代が追いつかず、出発口に小さな列が伸びる光景が広がった。
一時的な閉鎖は到着便と出発便の双方に波及した。目的地を目前にして引き返す便もあれば、代替空港へのダイバートを余儀なくされた便もある。空港会社は運航再開を告げつつも、機材と乗務員の循環に時間を要すると見通しを示し、利用者には便別の最新情報を確かめる行動が求められた。事態は数時間で収束したが、旅程の乱れは一日を通じて残ったと映る。
確認できる範囲では、影響を受けたのは合計で約30便、約6000人である。欠航は一部にとどまったが、再開後も折返し便の遅延が連鎖し、朝から昼にかけて予定表の赤い表示が消えない時間帯が続いた。滑走路の安全確認や航空路の整理は迅速に行われ、空港の運用は段階的に常態へ戻ったが、旅客の体感としては長い朝となった。
気球の正体を探る
誰が、どのような気球を飛ばしたのか。現時点で確認されている範囲では、空港周辺を含む一帯で多数の気球が検知されたとの報がある。数としては25基規模との伝えもあり、うち一部が空港上空付近に達した可能性が指摘されている。一方で、飛来目的や放球地点については確定情報が乏しく、当局は解析と回収状況の照合を進めている段階とみられる。
一部報道によれば、回収された気球から大量のたばこが見つかったといい、密輸に使われた疑いが浮かぶ。回収数や箱数には揺れがある。ある報道は回収7基で約1万2000箱相当と伝え、別の報道は回収11基で約1万8000箱に及ぶとしている。数字の差は時間経過に伴う追認や集計範囲の違いによるものとみられ、当局の最終発表を待つ必要がある。
こうした気球は、気象用の資材を転用し貨物を吊り下げる手口が知られている。意図的に高度と漂流経路を調整し、人のいない夜間に境界線を越えさせる構図だ。通常のレーダー監視や防空の運用では「航空機」として扱いにくい側面があり、空域管理にとっては小さくても厄介な存在である。今回の空域閉鎖は、軽微でも不確実な物体が滑走路周辺に近づくことのリスクを優先して遮断した決断と映る。
広がる警戒、旅客に残る余波
今回の閉鎖で、到着機の一部は周辺国の空港へ振り向けられたとみられる。夜間着陸の枠や地上支援の手配など、受け皿の負担は小さくない。欧州では数週間にわたり、ドローンや未確認物体による空域かく乱が散発しており、空港運用の現場には緊張が続いている。意図を測りかねる小さな侵入が、大きな運航計画の遅延へと波紋を広げる構図は、旅の弱点を突くようでもある。
リトアニアは国境地帯での空域安全を高めるため、夏以降、国境に沿って一定区間の飛行禁止を設定するなどの対策を強めてきた。密輸や越境の兆候に対処する実務は積み上がっているが、今回のように首都空港の運用を止める判断は重い。空の安全確保と都市機能の維持、二つの価値のあいだで、当局は保守的な選択を重ねていると映る。
運航は再開したとはいえ、機材繰りの乱れは旅客の一日の計画をじわりと削る。だれに有利な事態だったのか、偶然か必然か。答えは捜査と解析の先にある。現地当局は回収物の分析や航跡の特定を進めており、故意の越境か、単なる漂流かの線引きは今後の公的説明に委ねられる。次の週末、同じ空が穏やかである保証はどこにもない。
