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反捕鯨活動で知られるポール・ワトソン容疑者を巡り、日本とブラジルの対応の差が浮かび上がっている。日本政府は今年10月末、ブラジルに滞在していたワトソン氏の身柄移送を要請したが、先方はこれを受け入れなかったことが明らかになった。南米アマゾンの都市ベレンでは、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の会場に、長年日本から指名手配されてきた活動家が堂々と姿を見せていた。この光景は、捕鯨を巡る価値観だけでなく、国際的な司法協力のあり方にも疑問を投げかけている。
COP30に現れた「指名手配の活動家」と開催国の判断
ワトソン氏は10月26日にブラジルへ入国し、北部ベレンで開かれたCOP30に出席した後、18日まで同国にとどまっていた。日本側が水面下で身柄移送を申し入れていたにもかかわらず、開催国は会期中に拘束に踏み切らなかったことになる。会場周辺では、海洋保護のベテランとして迎えられる場面もあり、外交・治安上の扱いと環境分野での評価のギャップがにじんだ。
会議の場で、同氏は日本の捕鯨だけでなく、深海採掘や南極海周辺でのオキアミ漁など、新たな海洋利用にも批判の矛先を向けた。気候変動対策の文脈で、海の生態系を守ることが森林保全と同じくらい重要だと訴え、各国代表に対し「見えない海の危機」に目を向けるよう求めたことは、COPという舞台ならではの発信だった。
一方で、日本の海上保安庁が同氏の逮捕状を取ったのは、2010年に南極海で日本の捕鯨船団の操業を妨げた疑いからだ。捕鯨船への接近・乗り込みなどを伴う過激な抗議行動が、人身事故につながりかねないと日本側は主張してきた。会場で海洋保護の象徴のように語られる人物が、別の国では刑事事件の被疑者と位置づけられているという二重の顔は、参加者にも複雑な印象を残したはずだ。
ブラジルは日本と犯罪人引き渡し条約を結んでおらず、ワトソン氏の拘束や移送はあくまで裁量に委ねられていた。開催国としてCOP30の議論を乱したくない思惑に加え、環境保護に積極的なルラ政権の姿勢も、要請に応じない判断を後押ししたとみられる。結果として、同氏は国際会議の場で日本批判を強める一方、日本の法執行は域外で実効性を欠く構図が改めて示された。
デンマークの拒否とインターポール決定が映す「政治色」
今回のブラジルの対応は、2024年にデンマークが示した姿勢とも重なる。ワトソン氏は同年夏、グリーンランド寄港中に日本の要請に基づき拘束されたが、約5か月後に釈放され、日本への引き渡しは行われなかった。デンマーク司法当局は、事件からの時間経過や勾留期間の扱いへの懸念などを理由として挙げ、日本側の求める処遇が妥当かどうかに疑問を示した。
その後、2025年7月には国際刑事警察機構(インターポール)が、同氏に対する「赤手配」の削除を決定した。各国に身柄拘束を促す国際的な仕組みが外れたことで、日本の逮捕状は自国内と一部友好国にほぼ限定された効力しか持たなくなった。インターポール内部の監督機関は、この案件を巡る政治的要素の強さを指摘し、純粋な刑事事件を超えた性格があると判断したとされる。
こうした経緯を踏まえると、ブラジルが日本からの要請に慎重になった背景も見えてくる。国際的には、捕鯨への批判が広く共有される一方で、過激な抗議行動をどこまで処罰対象とみなすかについては国ごとに温度差がある。欧州や南米の一部では、環境活動家への厳罰が人権問題として批判される事例も増えており、国家間の司法協力よりも国内世論への配慮が優先されがちだ。
日本政府は、インターポールによる赤手配の削除後も、自国の逮捕状は有効だとして追及の手を緩めない考えを示している。しかし、デンマークやブラジルのように、法的には拘束や送還が可能でも、政治的・外交的なコストを理由に応じない国が増えれば、国際的な包囲網はさらに緩む。法の執行と環境外交の双方をどう両立させるのか、日本の戦略は問われている。
捕鯨を巡る日本の選択肢と、これからの対立のかたち
ワトソン氏が標的としてきた日本の捕鯨は、この十数年で姿を変えてきた。日本は2019年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、公海での「調査捕鯨」をやめる一方、自国の排他的経済水域内で商業捕鯨を再開した。2024年には新たな大型母船カンゲイマルが就航し、国内市場向けの供給体制を整えつつあるが、国際社会からは依然として厳しい視線が注がれている。
国内では「食文化」としての継続を求める声がある一方、若い世代を中心にクジラ肉への関心は低下しているとの指摘もある。日本政府は資源管理の枠組みの下で持続的な利用を訴えるが、欧州や南米の多くの国にとっては、クジラ保護はもはや交渉の余地が小さい価値観となりつつある。こうしたギャップが、ワトソン氏のような活動家の扱いを巡る判断にも影響している。
実際に、日本がいくら逮捕状を更新しても、主要な寄港国や国際機関が距離を置けば、個別の活動家を追い続けることで得られる実利は限られる。一方で、海上での危険な妨害行為を看過すれば、乗組員の安全や航行の自由が脅かされかねない。日本にとっては、特定の人物の身柄確保に固執するよりも、海上保安体制の強化や他国との海難防止協定など、衝突そのものを減らす仕組みづくりに軸足を移す選択肢もある。
ブラジルによる引き渡し拒否は、日本の捕鯨政策そのものを直ちに左右する出来事ではない。それでも、環境・人権・司法協力が絡み合う時代に、ある活動家をどう扱うかという判断が、国のイメージや信頼にも跳ね返ることを示している。日本がどのような手段で海と向き合い、異なる価値観を持つ国々と折り合いをつけていくのかが、今後の焦点になりそうだ。
参考・出典
- Ocean activist dodging Japanese arrest vows at COP30 to take on deep-sea mining, krill industry
- Paul Watson
- Denmark frees anti-whaling activist Watson, rejecting Japan extradition
- Anti-whaling activist Paul Watson could face up to 15 years’ prison in Japan if convicted | Japan | The Guardian
- 反捕鯨活動家の引き渡し、ブラジルが拒否…ポール・ワトソン容疑者「各国が活動に理解示している」
