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秋の朝のマンハッタン、ユニオンスクエアの会場がざわめきに包まれた。現地の開会式中に男が銃を掲げて壇上に上がり、自傷をほのめかしたのである。事件は「WikiConference North America 2025」を一時中断させたが、参加者の機転で最悪は避けられた。児童保護をめぐる規定への抗議が背景にあると報じられ、ネット時代のコミュニティ運営と公共の安全の線引きが改めて問われている。
壇上の緊張、走った二人と止まった引き金
現地時間の金曜朝9時に始まった開会式は、静かな講堂の空気を一変させた。男が首から札を下げてステージに上がり、自らの頭に銃口を向けたのである。日本時間では2025年10月18日 22:00ごろの出来事にあたる。会場は一瞬凍りつき、前列から悲鳴に似た息をのむ音が広がった。
緊迫の数秒、Wikipediaの寄稿者であるリチャード・クニペル氏とアンドリュー・リー氏が素早く壇上に駆け上がり、男を押さえ込んだと伝えられている。発砲は確認されず、負傷者も出なかった。会場スタッフと参加者の即応が連鎖し、聴衆の避難誘導も比較的落ち着いて進んだとみられる。
男は27歳のコナー・ウェストン容疑者と報じられ、現地警察により現場で拘束された。銃器不法所持や危険行為の容疑がかけられているとされ、取り調べが進められている。会場はユニオンスクエアのCivic Hallで、地域のテック系イベントの舞台として知られる空間が一転、非常対応の現場となった。
抗議の矛先となった規定と、揺れる言葉
ウェストン容疑者は自らを「非接触・非犯罪性の小児性愛者」と称し、Wikipediaの児童保護規定に抗議したとされる。現時点で確認されている範囲では、Wikipediaは未成年者への加害やそれを容認する行為を厳格に禁じ、自己申告による小児性愛者の編集参加を認めない方針を掲げていると伝えられている。
容疑者の首から下げられていた表示は、その自認を明示する内容だったとされる。会場ではスピーチを待つ参加者が大半で、政治的主張の場ではなかった。にもかかわらず、オンラインコミュニティの規範と個人の表明が、オフラインの場で激しく衝突した瞬間が映し出された格好だ。
一部報道によれば、容疑者は過去に成人と未成年の関係に反対する趣旨の投稿を行っていたという。ただ、それが今回の行動の動機をどこまで説明するかは不透明である。規定の是非をめぐる議論と、銃を伴う威嚇的行為は切り離して考えるべきだという見方も広がっている。
再開された会場と、問い直される「守り方」
事件当日、残りのプログラムは全て中止されたが、翌日以降は警備を強化して再開されたと報じられている。日本時間では2025年10月19日以降にあたる。入場時のチェックや会場内の動線が見直され、登壇者と聴衆の距離感も再設計されたとみられる。参加者の表情には安堵と緊張が交錯していた。
コミュニティの側は、危機に際して互いを守るという基本に立ち返った。壇上に走った二人の寄稿者への称賛が広がる一方で、個々の勇気に依存しない安全設計の必要性も浮かぶ。会場の複数の出口、係員の配置、緊急時の合図――平時には目立たない仕組みの価値が改めて可視化された。
今回の事件は、オンラインの規約とオフラインの安全が同じ線上にあることを示した。コミュニティが掲げる禁止事項や排除の基準は、現実の場での受け止め方や反発を伴う。誰を守るための線引きなのか。言論と安全の両立をどう設計するのか。静けさを取り戻した会場に、そんな問いだけが残ったと映る。
