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スティーブ・イエーツ氏は、記者の問いに身を乗り出し「米中は冷戦状態にある」と言い切った。米ブッシュ政権で副大統領副補佐官を務めた保守系研究者で、現在はヘリテージ財団の上級研究員だ。2025年11月15日までに応じた時事通信のインタビューでは、フェンタニル流入や不公正な貿易慣行を挙げ、中国の影響力行使を米国の生活様式への脅威と位置づけた。その視線は同盟の備えにも向いていた。
「冷戦に酷似」と語る理由
イエーツ氏は、米国が被る損害を抑えるために資源投下が避けられなくなった現状を「冷戦1.0に酷似する」と捉える。相手の関与は交易だけでなく、情報や規範にも及ぶとし、社会の広い層に波紋を起こす点を重ねた。軍事の緊張だけでは測れない、長い競争の構図が背後に見えるという説明だ。
同氏が列挙したのは、国内の薬物禍や産業の不均衡に直結する論点だ。合成麻薬の広がりは治安と地域コミュニティの負担を増やし、通商面の歪みは技術や雇用の持続性を脅かす。個別の課題は違っても、蓄積すれば国家の回復力を削ぐという認識が根底にある。安全保障の線引きが暮らしの領域へ近づく図だ。
フェンタニル（合成オピオイド系の麻薬）をめぐる論争は、国境管理からオンライン販売の規制まで複数の政策領域を横断する。イエーツ氏は供給の経路や関与のあり方に疑義を呈し、国内対策だけでは限界があると示唆した。薬物、貿易、情報の三つ巴で、対応の遅れが新たなコストを生むとの見立てである。
G2論とトランプ流コミュニケーション
同氏はG2（米中の二大国で世界運営を図る考え方）に否定的だ。意見の相違を脇へ置き協力を重ねるという響きは心地よくとも、現実はそう動いていないとみる。枠組みの言葉が先行すると、現場で積み上がる齟齬が見えづらくなる。結果として抑止も協力も弱くなるというのが、氏の危惧である。
トランプ米大統領の発言手法については、相手の調子を崩すためにあえて型を外す面があると評価した。用意原稿から外れた応酬を引き出す狙いで、政治交渉の文脈では非定型のコミュニケーションだという。刺激的な投げかけは誤解を生む半面、停滞した対話を動かす局面もあると、氏は淡々と読み解く。
そのうえで氏は、同盟国の抑止投資が米国の柔軟性を高めると指摘した。防衛力強化の連鎖が「行き過ぎても大丈夫だ」と中国に思わせない環境をつくる、という含意だ。同盟は遠心力が働くほど綻びが出るが、役割の更新が進めば求心力は戻る。G2の言葉より、足元の装備・運用・産業基盤の調整が物を言う。
台湾と日本、防衛の含意
イエーツ氏は、中国の主権主張の拡大を懸念し、台湾への圧力を拡張主義的だと述べた。現状を力で変える企図があれば、日本の集団的自衛（同盟国への武力攻撃に共同で対処すること）に関わる利益が直ちに問われるという整理である。地理の近さは、抑止の失敗が連鎖する速さにもつながる。
日本の防衛力強化をめぐっては、将来の戦い方を見越した投資が鍵になると語る。個々の装備や予算だけでなく、情報共有や補給の回し方までを同盟仕様に合わせる発想だ。役割分担が明確になるほど、危機時の判断は揺れにくい。氏は日本を「責任あるステークホルダー」と評価し、足並みの更新を促した。
一方で、薛剣・駐大阪総領事の「首斬り」投稿を「挑発的で攻撃的」と批判し、召還や正式な謝罪がない点にも言及した。外交言語の荒さは誤解を招き、国内の反発を増幅させる。言葉が鋭くなるほど、現場の偶発リスクは高まる。緊張が漂うほど、制度と作法に沿った応答の価値が増す。
強い語気が行き交う時間は長くなりやすい。足元を固める作業は目立たないが、静かな積み上げが危うさを遠ざける。
