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大学の部室前で、練習を終えた若者を待つ影があった——。1999年に名古屋市西区のアパートで高羽奈美子さん=当時32=が殺害された事件で、逮捕された安福久美子容疑者(69)が、高羽さんの夫・悟さん(69)の大学時代に活動場所へ無断で現れていたことが11月5日、悟さんへの取材で分かった。26年を経て浮かぶ断片は、事件の動機をめぐる折り重なった時間を照らし始める。
夫が語った“待たれる”日々
悟さんは高校時代、容疑者と同級生で同じ部に所属していた。バレンタインデーにチョコレートを受け取り、好意を告げられた記憶があるという。淡い関係の響きはあったが、進学や就職の節目を越えるうち、互いの距離は自然に離れていったと語る。
大学では別の部活動に打ち込み、練習後に容疑者が連絡なく待っていたことがあると明かす。驚いた悟さんは「待たれるのは困る」と伝え、以後は会う機会が減った。断続的に続いた“待ち伏せ”の感覚は、学生の時間から社会人の生活へ移るにつれ、静かに背景へ退いていった。
再び顔を合わせたのは事件の5か月前、母校の部活動の同窓会だったとされる。近況を交わしただけで深い会話はなく、その場は散会した。淡い記憶の継ぎ目のような再会が、長い空白ののちに大事件へつながるとは、当時の誰も想像していなかったのだろう。
再捜査で進んだ特定と逮捕の経緯
愛知県警は昨年、事件直後に話を聴いた関係者の中から詰め切れていない数百人を抽出し、今年8月以降に事情聴取を重ねた。10月30日にDNA型鑑定の試料提出があり、翌日に現場血痕と一致して逮捕へ至った経過が確認されている。容疑は認めているとされる。
その後の現場検証では、部屋への侵入方法や室内の動きなど、容疑者の説明が現場状況とおおむね合致したとされる。事件時に手を負傷した趣旨の供述は、当時「手を押さえる女を見た」という複数の目撃とも整合するという。捜査の積み重ねが点を線に変え、逮捕後の確認で線は形を帯びた。
取り調べでは、長い歳月を「毎日不安だった」と振り返り、被害者への謝罪の言葉も口にしたと伝えられる。供述の端々からにじむ心境はあるが、動機の核心はなお捜査の途上にある。語られた情と、証拠が示す事実がどこで重なるのか、慎重な見極めが続く。
残された接点の空白と、これから
容疑者と奈美子さんの直接の接点は、現時点で確認されていない。関係性として見えるのは、容疑者と悟さんが高校の同級生で同じ部にいたという事実にとどまる。断片的な縁の線は細く、事件の構図は単純な三者関係では描き切れない。
当日の午後、アパートの大家が廊下で倒れている奈美子さんを見つけた。首を数か所刺され、凶器は見つかっていない。暮らしの通路で起きた突然の暴力は、家族と地域に長い影を落とし、部屋に残った細かな痕跡だけが、時間を越えて事実の位置を指し示してきた。
5日、夫の口から明かされた古い記憶は、時間の層に埋もれていた動きの輪郭を少しだけ際立たせた。足音の消えた廊下、閉じた扉、残された生活の気配。捜査がたどる道筋の先に、失われた日常へ静かに手を伸ばす術が見えるのかもしれない。
